日本の釣具は"クレイジー"と言われる|専用設計文化が世界2強を生んだ話

釣具店に初めて入ったとき、意味が分かりましたか

釣りを始めたばかりの頃、釣具店で途方に暮れた記憶がある人は多いと思います。

壁一面に並ぶロッド。同じように見えて、ラベルを読むと全部違う。シーバスロッド・アジングロッド・メバリングロッド・エギングロッド・サーフロッド・ショアジギングロッド——しかも各カテゴリの中にさらに品番がある。長さ・硬さ・グレード・価格帯の掛け算で、1メーカーだけで何十品番もある。

メーカーカタログを手に取ると、ページ数がゆうに100ページを超えます。びっしり並んだ品番の一覧を見て、「これ全部違う竿なの?」と思ったとしても、それは正常な反応です。

これは日本の釣具店だけで起きる現象です。海外では起きません。


現状を整理する——どれくらい「異常」なのか

日本の釣具市場の規模は国内出荷ベースで約1,500億円(2023年)。業界団体の日本釣用品工業会には約180社が加盟しており、実際には非加盟の小規模メーカーも含めると、市場に参入しているメーカー・ブランド数は優に数百を超えます。

アジング(アジをルアーで狙う釣り)だけに絞っても、専用ロッドを販売しているメーカーは30社以上。アジング専用ロッド・アジング専用リール・アジング専用ライン・アジング専用ジグヘッド・アジング専用ワームと、アジ1匹を釣るためだけにフルタックルを揃えられる状態です。

ロッドは魚種別・釣り方別・ターゲットサイズ別に専用品があります。「シーバスロッド」は単なる出発点で、そこからデイゲーム向け・ナイトゲーム向け・河川向け・サーフ向け・港湾向けと細分化されます。同じシーバスを釣るためのロッドが1ブランドで10品番以上あることも珍しくありません。

リールも例外ではありません。スピニングリールの番手・ギア比・ハンドル位置の組み合わせだけでなく、「アジング専用モデル」「エギング専用モデル」という形で魚種・釣り方別に専用品が存在します。


和竿の時代から、この発想はあった

ここが日本の釣具文化の核心です。

江戸時代、職人が作る和竿はすでに魚種ごとの専用設計でした。キス竿・ハゼ竿・タナゴ竿・フナ竿・テナガエビ竿——素材となる竹の種類から節の間隔、漆の塗り方まで、それぞれの釣りに最適化された専用品が作られていました。

江戸時代のキス釣りの記事でも触れましたが、武士の間でキス釣りが流行し、脚立に乗って江戸湾に立ち込む「脚立釣り」という釣り方が発達したころ、釣り師たちはその釣りのために最適な竿を職人に注文していました。

日本最古の釣り専門書『何羨録(かせんろく)』(1723年)は、竿・糸・針・エサの細部まで記録した本格的な釣り指南書です。江戸時代の釣り人がすでに道具を徹底的に考察していたことを示しています。

「この釣りにはこの道具」という発想は江戸時代からあった。カーボン素材に変わっても、リールが登場しても、その発想の核は変わらなかった——それが現代の多品番文化の起点です。


シマノ・ダイワの手が届かないところを中小メーカーが掘った

現代の多品番化を加速させたもう一つの力が、中小メーカーのニッチ戦略です。

シマノとダイワは総合釣具メーカーです。ロッド・リール・ルアー・ライン・小物まですべて作る。しかしその規模ゆえに、細かいジャンルの専用品まで素早く対応するのは難しい。

そこに中小メーカーが入り込みました。

アジング専用品市場を先に開拓したのは、福岡県の中小メーカー「34(サーティーフォー)」です。アジングというジャンルがまだ市民権を得ていない時期から、アジングだけを徹底的に突き詰めた専用タックルを作り続けてきました。このメーカーが確立したメソッドと製品は、現在もアジング専門ブランドとして根強い支持を持っています。

こうした中小メーカーが新しいジャンルを開拓すると、市場が育ってきたタイミングでシマノが「ソアレ」、ダイワが「月下美人」というアジング専用ブランドを立ち上げて追従します。大手が参入することで市場がさらに広がり、またその隙間に別の中小メーカーが入り込んで次のニッチを掘る——この繰り返しが、品番の数を際限なく増やしてきました。


海外ではどうか——フライロッドとダイワの海外展開

比較として、繊細な釣りの代名詞であるフライフィッシングを見てみます。

アメリカの老舗フライロッドメーカー「Orvis」のラインナップは、シリーズ別に「Helios」「Recon」「Clearwater」「Superfine」と4〜5シリーズ。各シリーズはラインウェイト(#2〜#12程度)×長さで展開しており、全社合計でも数十品番という規模です。

これはフライフィッシングが「繊細でない」からではありません。フライフィッシングはラインウェイトと長さを選べば、あとは釣り人の腕と毛針の選択で対応するという発想です。「どんな川のどんな魚を狙うか」はロッドのスペックではなく釣り人が解決する——そういう文化です。

ダイワの海外展開も同様です。国内では「アジング専用」「キス専用」と細分化された製品群が、海外向けでは「1000番・2500番・4000番」というサイズのマトリクスだけで展開されます。「Saltist」「Saltiga」といった海外向けモデルは、番手とギア比の組み合わせで選ぶシンプルな構成です。同じメーカーが国内と海外でまったく異なるラインナップ思想で製品を作っています。


日本人の「釣り道具」へのこだわりは、世界2強を生んだ

この多品番文化は「非効率」に見えて、実は世界最高水準の製品を生み出す土壌でもあります。

ニッチな専用品への需要があるからこそ、メーカーは特定の用途に特化した技術を突き詰めます。「アジングに最適な感度」を追求したロッドが、その技術を応用して他のジャンルの製品を進化させる。専用品市場の要求水準が、全体の技術水準を底上げしてきた側面があります。

世界の釣具市場トップ2がシマノとダイワという日本の2社であることは、偶然ではないかもしれません。


店長の結論

そこのあなた、シーバスロッドだけで家に何本ありますか

江戸時代の職人がキス竿とハゼ竿を別に作っていた。その発想が現代まで続いて、アジングロッドだけで30メーカー以上が参入する市場になっている。

海外の釣り人が日本の釣具店を見たとき、「なんでこんなに品番があるんだ」と思うでしょう。それは間違っていません。日本の釣具の多品番化は、客観的に見れば異常な状態です。

でも釣り人としては分かってしまう。アジング専用と書いてあると、手に取ってしまう。シーバス用と磯用で竿を分けたくなる。道具を突き詰めたくなる気持ちは、江戸時代の釣り師と変わっていません。

その結果が、家のロッドスタンドに何本も立っているロッドです。


本記事のメーカー数・品番数等は執筆時点の参考情報です。市場の状況は随時変化しています。


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