マゴチは暑いほど旨い|照りゴチと呼ばれる夏の高級白身の話
以前、釣りが快適なレジャーとして成立する時期について書きました。結論は「真夏は暑すぎて釣りがレジャーとして成立しにくくなっている」というものでした。
ところがその真夏に、旬のピークを迎える高級魚がいます。マゴチです。
カンカン照りの猛暑日。地面からの照り返し。人間が外に立っているだけでつらい日に、マゴチはもっとも旨くなる。釣り人にとって皮肉な話です。
「照りゴチ」という言葉
真夏の強い日差しの中で釣れるマゴチを「照りゴチ」と呼びます。
この言葉には2つの意味があります。ひとつは「日が照りつける真夏こそマゴチの釣り時」という釣り人の経験則。もうひとつは「日が照りつける真夏のマゴチがいちばん旨い」という食味の評価。釣り時と旬が同じ時期に重なる、釣り人にとって都合のいい魚です。
ではなぜ真夏に旨くなるのか。
産卵期なのに旨い、という矛盾
マゴチの旬は6〜8月で、これは産卵期と重なっています。
普通の魚は産卵期に味が落ちます。卵に栄養を取られて身が痩せるからです。キスもカレイも、産卵後は身がやせてしまう。釣り人の間で「産卵後の魚は味が落ちる」というのは常識です。
マゴチではこの常識が当てはまりません。産卵期に脂がのっている。
理由として考えられているのは、マゴチにとって夏が「もっとも快適な水温で、もっとも活発にエサを食べる時期」だからです。マゴチの適水温は19〜23℃。冬の間は深場でほとんど動かず、春から夏にかけて産卵のために浅場に接岸し、浅場にいるハゼやキスや小魚を猛烈に捕食します。
産卵のためにエネルギーが必要→浅場に来て猛烈に食べる→食べているから身に脂がのる。産卵で痩せるどころか、食べる量がそれを上回っている。
マゴチが暑いほど旨い理由は、暑い時期がマゴチにとっていちばん快適で、いちばん食欲旺盛な時期だからです。
照りゴチの仕組み
なぜ真夏にマゴチの活性が上がるのか。
マゴチの適水温は19〜23℃です。真夏の浅場の水温がちょうどこの範囲に入ります。適水温のど真ん中にいるマゴチは、消化が早く、食欲旺盛になり、浅場にいるハゼやキスを積極的に追いかけます。
さらに真夏はマゴチの餌となる小魚も浅場に多い。キスが接岸しているし、ハゼも浅場で活発に動いている。狩る側と狩られる側の両方が浅場に集まる季節です。
「照りゴチ」という言葉は、この「暑い日ほどマゴチが活発になる」現象を、経験的に知っていた釣り人が名付けたものでしょう。
「夏フグ」の異名
マゴチは江戸時代から「夏のフグ」と呼ばれてきました。
1831年の『魚鑑(うおかがみ)』には「江都海尤多し、夏月洗ひ鱠(なます)となすときは、こひすずきに次て、酒媒(さけのさかな)の一品なり」と記されています。江戸の海に多く、夏に洗いにすればコイ・スズキに次ぐ酒の肴の一品だ、という評価です。
さかなの語源が酒菜であることを以前書きましたが、マゴチもまた「酒の肴」として江戸の食文化に根付いていた魚です。
フグ並みの白身の食感と上品な甘みから「夏フグ」と称されるようになりました。砂底の魚に白身が多い理由は別の記事で書きましたが、マゴチもまた砂底に特化した生き方が良質な白身を作っている魚です。ヒラメの味が落ちる夏に旬を迎えるという時期的な補完関係もあります。
「コチの頭には姑の知らぬ身がある」
マゴチにまつわる言い回しで「コチの頭には姑の知らぬ身がある」というものがあります。
マゴチは頭が巨大で、見た目には可食部が少なく見えます。歩留まりが悪い魚で、三枚におろすと「こんなに少ないのか」と思うほどです。頭を切り落として捨ててしまいがちですが、実は頬肉に極上の身が詰まっています。
頬肉は本体の刺身よりさらに弾力が強く、旨味が凝縮しています。姑(目上の人)にも教えずに自分だけで食べたいほど旨い、というのがこの言い回しの意味です。
釣り人が自分で捌くからこそ、この頬肉を味わえます。マゴチの食べ方はこちらの記事で詳しく紹介しています。
マゴチは「夏の魚」ではなく「夏だけ岸に来る魚」です
最後にマゴチの年間を確認しておきます。
マゴチは年中存在しています。冬にいなくなるわけではありません。冬は水温が下がると沖の深場(水深20〜50m程度)に移動して、ほとんど動かずに過ごしています。船釣りなら冬でも深場で狙えます。
春、水温が上がり始めると産卵のために浅場に接岸を始めます。初夏から本格的に浅場に入り、真夏にピークを迎え、秋には産卵後の荒食いでもう一度活性が上がります。晩秋に水温が下がると再び深場へ戻っていく。
つまり「夏の魚」というよりは「夏だけ岸に来る魚」です。オカッパリから狙えるのが夏に限られるから、釣り人にとって夏の魚になっている。マゴチ自身は冬も海のどこかで静かに過ごしています。
私の結論
マゴチは、人間がいちばんつらい時期にいちばん旨くなる魚です。
照りゴチを釣りたければ、猛暑日に釣り場に立つ覚悟が必要です。熱中症対策を万全にして、早朝か夕方に勝負を絞る。あるいは船に乗って水の上で風を受けながら狙う。マゴチの釣り方は葵ちゃんの記事をどうぞ。
真夏の猛暑が報じられたとき「釣りに行くのはやめておこう」と思う日に、マゴチは浅場で最高の状態になっています。その矛盾が、この魚の面白さです。
本記事は公開資料・文献をもとにした解説です。マゴチの旬・食味は個体・産地・鮮度によって異なります。