釣り人にしか食べられない魚がいる|スーパーでは買えない5種の話

魚の目利きにうるさい祖母が認めた味

私の祖母は若い頃、魚屋で働いていました。魚の鮮度と扱いにうるさい人で、並の魚屋では納得しない。そんな祖母を唸らせる行商のお婆さんがいて、祖母はその人からキスを買い、私に食べさせてくれました。それが私のキス釣りの原点のひとつです。

あのキスがどこから来たのか、今となっては分かりません。ただ行商で売られていた、ということはその日に水揚げされた魚だったはずです。鮮度が命の魚を、鮮度が保てる範囲で売り歩く——それが唯一の流通経路だったのかもしれません。

スーパーの鮮魚コーナーを見渡すと、アジ・サバ・イワシ・サケ・ブリ・タイ……。全国どこでも似たような顔ぶれが並んでいます。市場流通に乗れる魚と、乗れない魚がある。その境界線は、案外単純な理由で引かれています。


スーパーに並ぶには条件がある

スーパーの鮮魚コーナーに並ぶためには、いくつかの条件を満たす必要があります。

安定して大量に獲れること——散発的にしか獲れない魚は仕入れが安定しません。鮮度が保てること——水揚げから店頭に並ぶまでには時間がかかります。その間に品質が落ちる魚は扱いにくい。全国に流通できるサイズと形——小さすぎる・形が特殊すぎる魚は加工コストがかかります。

この条件から外れた魚は、スーパーには来ません。産地の市場で消費されるか、料亭・高級天ぷら店に直送されるか、あるいは釣り人が自分で釣るしかない。


① シロギス——「海の女王」がスーパーにいない理由

シロギスは銀座の天ぷら屋では当たり前に出てくる魚です。江戸前天ぷらの代表格として、江戸時代から東京で愛されてきました。ところがスーパーではほとんど見かけません。

理由は三つあります。

一つ目は砂に潜る習性。危険を感じると砂の中に身を隠すシロギスは、底引き網で効率よく獲りにくい魚です。漁師が手間をかけて獲っても、まとまった量が安定して獲れません。

二つ目は鮮度の劣化が速いこと。水揚げから時間が経つと品質が急速に落ちます。スーパーのように大量流通・陳列が前提の販売形態には向いていません。

三つ目は漁獲量の激減。近年シロギスの漁獲量は著しく減少しており、安い天ぷら店では国産シロギスの代わりにタイ・ベトナム・オーストラリアから輸入したキス科の魚を使っているのが実情です。2023年に沖縄で完全養殖シロギスの初出荷が実現しましたが、まだ流通量はわずかです。

釣ったシロギスをその日のうちに天ぷらにして食べる——それが最も美味しい食べ方で、それができるのは釣り人だけです。


② ハゼ——江戸前の象徴、佃煮以外では手に入らない

ハゼは江戸時代から東京湾の代表的な釣魚で、「江戸前」といえばハゼを指すほどの存在でした。

天ぷら・甘露煮・佃煮と食べ方が多彩ですが、鮮魚として流通することはほとんどありません。小型で可食部が少なく、スーパーで売るには割に合わない魚です。佃煮になったものは時おり見かけますが、生のハゼを店頭で見ることはまずありません。

秋口に河口や内湾で釣れるハゼを、その日に天ぷらにする。これは釣り人にしかできない季節の楽しみです。


③ メゴチ——江戸前天ぷらの裏主役

メゴチ(ネズミゴチ)はシロギス釣りの外道として釣り人に嫌われがちですが、食材としての評価は全く別物です。

江戸前天ぷらの高級店では「メゴチの天ぷら」は定番で、キスと並ぶ重要な天ぷら種です。ところがスーパーで売られているのをほとんど見かけません。強烈なぬめりと鋭い棘があるため、流通・小売の現場での扱いが難しい魚です。

三重県・静岡県・北陸の一部では食文化があり、地元の市場では見かけることがありますが、全国流通はしていません。

キス釣りでメゴチが釣れたら、捨てずに持ち帰ってください。天ぷらにするとキスと遜色ない味です。


④ ベラ——釣って初めて知った魚

釣りを始めるまで、ベラという魚を知りませんでした。

メジナやクロダイを狙っていると外道で釣れてくるこの魚、関東では外道扱いで捨てられることが多いですが、関西・九州では普通に食べられています。大阪の魚屋ではキュウセンベラを「ギザミ」の名で売っているほどです。

身は白身で淡白、薄造りや煮付けにすると上品な旨味があります。皮目に独特の風味があり、慣れると良さが分かる魚です。

関東では「食べない魚」という認識が定着しているため、東京近郊では鮮魚として流通することはほぼありません。釣り人が釣って持ち帰らない限り、関東で新鮮なベラを食べる機会はありません。

釣れたら捨てずに持ち帰る価値がある魚のひとつです。


⑤ ヒイラギ——嫌われているが、食べると美味しい

ヒイラギはキス釣り・ハゼ釣りの外道として知られ、鋭い棘と大量の粘液から釣り人に嫌われています。地域によっては「猫またぎ(猫も跨ぐほど価値がない魚)」と呼ばれることすらあります。

ところが関西・九州では食用にされており、塩焼き・唐揚げ・吸い物にすると上品な白身の旨味があります。可食部は少ないですが、ちゃんと食べられます。

スーパーで見かけることはまずありません。釣り人が持ち帰り、食べてみて初めてその価値に気づく魚です。


釣り人の特権

スーパーで買える魚は、流通に乗れる魚だけです。

鮮度が命で、獲りにくく、小さくて扱いにくい魚は、産地か釣り人の手元にしかありません。シロギスを釣った日の夜に天ぷらを食べる。ハゼを秋の河口で釣って甘露煮にする。メゴチを外道と笑いながらも持ち帰って天ぷらにする。

これは釣り人にしかできない食体験です。スーパーでは買えない理由が、そのまま釣りに行く理由になっています。

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魚の流通状況は地域・季節によって異なります。産地近くの鮮魚店では、本記事で紹介した魚が店頭に並ぶこともあります。


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