魚のぬるぬるの正体|成分・役割・魚種ごとの違いを整理します
「この魚、触りたくないんですけど」
釣具店で働いていると、お客さんから「ぬるぬるの魚が釣れたんですけど、あれ何ですか?」と聞かれることがあります。だいたいメゴチかヒイラギです。正直に言うとわたしも最初は得意じゃなかったです。
エギングでイカを釣っていると墨と多少のぬめりには慣れるんですが、魚のぬめりはイカとは質が違います。ベタっとまとわりつく感じで、手を洗っても臭いが残る。メゴチを初めて触ったときの「うわ」という感覚は今でも覚えています。
でも「なぜぬるぬるしているのか」を知ったら、ちょっとだけ印象が変わりました。あれは汚れじゃなくて、魚の免疫システムです。
魚はなぜぬるぬるしているのか
人間の皮膚は角質化した死んだ細胞で覆われていて、それがバリアになっています。魚の皮膚にはそのバリアがありません。すべて生きた細胞で、水に直接さらされています。ウロコも意外と脆くて、衝撃で簡単に剥がれます。
その代わりに魚が持っているのが、体表から分泌される粘液です。
主成分はムチンという糖タンパク質で、コンドロイチン硫酸やヒアルロン酸なども含まれています。粘液の中には抗体や抗菌ペプチドといった防御因子も含まれていて、細菌の侵入を防ぐ化学的なバリアを作っています。
釣り上げたときにぬるぬるが多い魚は、それだけ体表防御を粘液に頼っている魚です。つまり、ぬるぬるしている魚ほど「自分の体を守る力が強い魚」と言えます。
ぬるぬるには複数の仕事があります
粘液の役割は感染防御だけではありません。
感染防御:水中は空気中より微生物の密度が格段に高い環境です。粘液に含まれる抗菌ペプチドやレクチンが、病原菌の侵入を防いでいます。
遊泳抵抗の低減:体表の粘液が水との摩擦を減らします。速く泳ぐ魚ほどこの効果が重要で、ぬるぬるしているのにはちゃんと意味があるわけです。
外敵からの脱出:捕食者に捕まれたとき、ぬるぬるで口から逃げる効果があります。ウナギが素手で掴めないのはこの機能が極端に発達しているからです。
浸透圧の調整:汽水域を行き来する魚にとっては、体内の塩分濃度を調整する一助にもなっています。
メゴチ(ネズミゴチ)——ぬるぬるの王者
シロギス釣りの外道として最もよく出会う、ぬるぬる界のチャンピオンがメゴチです。
釣り人が「メゴチ」と呼んでいるのは、標準和名ではネズミゴチをはじめとするネズッポ科の魚です。押しつぶしたような平たい頭が特徴で、釣り上げた瞬間からどんどん粘液が出てきます。
ぬめりの量がとにかく多い理由は、メゴチが砂底に張り付いて生活する底生魚だからです。砂泥底との摩擦や接触が多い生活スタイルに対応して、体表防御が発達しています。
注意点
エラに鈎状の棘があります。毒はありませんが、鈎状になっているため刺さると抜けにくいです。エラ蓋周辺には触れないでください。
クーラーに他の魚と一緒に入れると、メゴチの粘液が全部に広がって全員ぬるぬるになります。必ず別のビニール袋に入れてください。
フィッシュホルダー(メゴチバサミ)を使うと、棘とぬるぬるの両方に対処できます。
ヤリヌメリに要注意
メゴチとよく似た外道にヤリヌメリがいます。見た目が非常に似ていますが、クーラーに入れると腐った玉ねぎのような強烈な臭気を放ち、クーラー内の他の魚すべてに臭いが移ります。
見分け方はエラの棘の形状です。メゴチの棘は鈎状に曲がっていますが、ヤリヌメリの棘は返しのない針状です。メゴチっぽい魚が釣れたら、エラの棘を確認してから持ち帰るかどうか判断してください。
ヒイラギ——ぬるぬる+鳴く+光る
ヒイラギはウロコが少ない代わりに体表が大量の粘液で覆われていて、釣り上げると粘液を大放出します。「嫌われる外道」の代表格ですが、調べてみると意外と面白い魚です。
発光する:食道付近に発光器を持っていて、共生バクテリアによって光ります。浅海性の魚で発光する種は非常に珍しいです。
鳴く:釣り上げるとグーグー、ギーギーと鳴きます。地方名の「ギギ」「ギチ」はこの鳴き声が由来とも言われています。
棘は無毒だが鋭い:背びれ・尻びれの棘に毒はありませんが非常に鋭く、刺さると痛いです。「ヒリヒリ痛む」という意味の古語「ひひらく」が名前の由来とも言われるほどです。
ギマ——立つ魚
ギマはフグ目モンガラカワハギ亜目の魚で、「陸で立てる魚」として知られています。背ビレと腹ビレに3本の太い棘を持ち、身の危険を感じるとシャキーンと棘を開いてロックします。
釣った直後はザラザラした触り心地でむしろ持ちやすいのですが、時間が経つにつれて棘の付け根から粘液が出てきます。メゴチやヒイラギと比べてぬるぬるの出方が遅いのが特徴です。
粘液・棘ともに毒はありません。見た目の迫力から怖がる方もいますが、過剰に怖がる必要はないです。ただし棘は鋭いので、素手で掴むのは避けてください。
浜名湖や三河湾・伊勢湾ではギマを専門に狙う釣り人がいるほど食味が良い魚で、カワハギのようにメリメリっと皮を剥ぐだけで捌けます。
粘液の取り方
魚を調理する際、粘液が残ると生臭さの原因になります。
塩をふりかける:塩の浸透圧で粘液が浮き出てきます。その後水で洗い流すのが基本です。
酢を使う:酢の酸で粘液のタンパク質が変性し、落としやすくなります。
熱湯をかける:粘液のタンパク質が熱で固まり、剥がしやすくなります。ウナギの下処理でよく使われる方法です。

葵ちゃんのまとめ
魚の棘・ヒレには毒を持つ魚種もあります。見慣れない魚が釣れた場合は、魚種を確認してから触れるようにしてください。
メゴチを初めて針から外したとき、手のひら全体がぬるぬるになって、その手でロッドを握ったらグリップまでぬるぬるになりました。先輩に「メゴチバサミ使え」と言われて買いましたが、最初からそう言ってほしかったです。メゴチバサミは本当に買ってください。
ぬるぬるの正体を知ってからは、メゴチが釣れても「免疫が強いんだな」とちょっとだけ思えるようになりました。ヒイラギは光って鳴いてぬるぬるして棘がある、スペック全部盛りの魚ですが、関西では普通に食べているそうです。今度釣れたら試してみようと思います。
嫌われ者の外道たちですが、ぬるぬるは汚れじゃなくて免疫システムです。適切に処理すれば食べられます。特にメゴチの天ぷらは江戸前の定番で、キスに劣らない味です。
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