ナフサ不足は釣具にも影響する|PEライン・ワーム・ロッドへの波及を整理する
カルビーの白黒パッケージは、釣り人にとっても他人事ではありません
2026年のゴールデンウィーク明け、カルビーがポテトチップスの包装印刷を白黒に切り替えるというニュースが話題になりました。包装フィルムに使われるインキの溶剤がナフサ由来であり、供給が逼迫したためです。
「お菓子の話でしょ」と思った釣り人に伝えたいことがあります。
釣具は、プラスチックなしには存在できないレジャーです。
PEライン・ナイロンライン・フロロカーボンライン。ルアーのボディ。ワーム。ロッドのブランクスに使われる樹脂。リールのボディやローター。仕掛けのパッケージ。釣り場に持っていく道具を頭の中で並べてみてください。プラスチックでできていないものを探す方が難しいはずです。
ナフサ不足は、釣具にも波及します。
ナフサとは何か——釣具との接点を理解するために
ナフサは原油を精製する過程で得られる石油留分です。これを高温で分解するとエチレン・プロピレン・ブタジエンなどの基礎化学品が生成され、さらに加工されてプラスチック・合成繊維・合成ゴム・塗料・接着剤などになります。
ナフサから作られる製品は金額ベースでプラスチック製品が約6割、合成繊維と合成ゴムがいずれも約8%を占めます。ペットボトル・食品用ラップ・洗濯洗剤から医療器具・自動車部品まで、現代の製造業はほぼすべてナフサを起点としています。
日本のナフサ輸入の約73.6%は中東由来です。そして民間在庫は約20日分という非常に薄い水準でした。原油には国家備蓄制度がありますが、ナフサには備蓄義務がなかったのです。
2026年2月28日のホルムズ海峡封鎖により、この脆弱な構造が一気に露呈しました。
釣具への影響——何が、どう変わるか
ラインへの影響(最も直撃する素材)
PEライン(ポリエチレン製)
現代の釣りで最も広く使われているラインです。ポリエチレンはナフサから生成されるエチレンを原料とします。エチレン系列の減産は数週間以内に供給不足と価格高騰を招きます。
投げ釣り・エギング・ジギング・シーバスなど、PEラインを使う釣りは多い。細くて強くて感度が高いPEラインの特性はエチレン由来の繊維構造によるものです。代替素材は現時点では存在しません。
ナイロンライン・フロロカーボンライン
ナイロンはプロピレン・ベンゼン由来のアミドから作られます。フロロカーボンは含フッ素有機化合物で、製造過程でナフサ由来の原料を使います。いずれもナフサショックの影響を受ける素材です。
サビキ釣りの幹糸・ハリス・道糸——エサ釣りでも使うラインはすべて石油化学製品です。
ワーム・ルアーへの影響
ソフトルアー(ワーム)
ワームはポリ塩化ビニール(PVC)や熱可塑性エラストマーを素材とするものが多く、いずれもナフサ由来の原料から作られます。アジング・メバリング・バス釣り・根魚釣りでワームを使う釣り人は多い。消耗品であるためストックを持つ人が多い素材でもあります。
ハードルアー
ミノー・バイブレーション・ポッパーなどのプラスチックボディはABS樹脂やポリカーボネート系が多く、塗装に使われる溶剤もナフサ由来です。塗料自体はあっても薄めて使えるようにするシンナー(溶剤)がナフサ不足で出荷制限されることが建築塗料で起きており、釣具塗料も同様の影響を受ける可能性があります。
ロッドへの影響
カーボンロッドの主原料はカーボン繊維で、これ自体は石油化学製品ではありません。しかしロッドの製造にはエポキシ樹脂(バインダー)が不可欠で、エポキシはベンゼン由来の原料から作られます。ガイドを固定するエポキシコーティングも同様です。
直接的な影響は大きくないものの、製造コストへの転嫁は避けられません。
リールへの影響
リールボディ・ローター・スプールに使われるエンジニアリングプラスチック(ナイロン系・ポリカーボネート系)はナフサ由来です。ダイワの「ザイオン」のような高密度カーボン素材はカーボン繊維ベースですが、成形に使う樹脂はナフサ由来です。
金属パーツ(ギア・ベアリング・シャフト)は直接の影響を受けません。「リールの金属部品は大丈夫だが、ボディが影響を受ける可能性がある」という構造です。
比較的影響が少ないもの
チタン・ステンレスのガイドフレーム、金属製のジグ・オモリ・天秤・スナップ・スイベルは原料が金属のため直接の影響を受けません。ただし製造・輸送コストの上昇は波及します。
価格と供給への影響——タイムラグを理解する
ナフサの価格高騰が釣具の店頭価格に反映されるまでにはタイムラグがあります。
川上(ナフサ)→川中(エチレン・ポリエチレン等の基礎化学品)→川中(繊維・樹脂等の中間材料)→川下(ラインやワームの製造)→卸→小売という流れを経るためです。値上げは化学品など原料段階から始まり、徐々に供給網の川中、川下へと波及していきます。
これは「今すぐ釣具店の棚が空になる」という話ではありません。しかし数ヶ月単位で見ると、製造コストの上昇が価格に転嫁されていく可能性が高い。特にラインやワームのような石油化学原料の比率が高い消耗品は影響を受けやすいです。
冷静に、しかし知っておくべきこと
買い占めは意味がありません。個人が大量に買い占めたところで流通コストが増えるだけで、問題の解決にはなりません。トイレットペーパー騒動で分かった通り、パニック行動は自分にも他人にも利益をもたらしません。
ただ「知っておく」ことには意味があります。
道具を大切に使うことの意義が、今は少し違う重みを持ちます。当たり前のことが、今の状況では合理的な行動になっています。素材別に整理します。
ラインを長く使う
PEラインの巻き直し
PEラインは先端から数十メートルが最も傷みやすく、残りは使えることが多いです。リールから一度すべて出して、反対側(スプール側)を外側に巻き直すことで、傷んでいない部分を先端に持ってきて使えます。コスト半減とは言いませんが、1巻分を2シーズン使うことは十分可能です。
先端カットで延命
結び目やキズが入りやすいリーダーとの接続部分を定期的にカットして結び直すだけで、ライン全体の寿命が延びます。10cm切るだけで新品同様の強度が戻ることが多い。
ハリス・幹糸の再利用
市販仕掛けのハリスや幹糸は使い終わっても無傷のことがあります。針だけ錆びていたり、1本切れただけなら、残りの糸は捨てずに次の仕掛けに流用できます。
仕掛けを使い切る
持ち帰って洗う
1回使っただけで捨てていたサビキ仕掛けや胴突き仕掛けは、帰宅後に真水で洗って陰干しすれば次回も使えます。塩分と汚れを落とすだけで、針の錆びと糸の劣化を大幅に遅らせられます。特にテンビン・オモリ・スナップ・スイベルといった金属小物は、洗えば何度でも使えます。毎回捨てるのはもったいないです。
サビキ仕掛けの針だけ交換
幹糸は生きているのに針だけ錆びた——そういう仕掛けは、針を結び直すことで復活します。仕掛け全体を捨てず、消耗した部分だけ交換する発想です。
ルアー・ワームを使い切る
フックだけ交換してボディを再利用
ルアーのボディが生きているのにフックだけ錆びることは頻繁にあります。フックは単体で売られているため、ボディを捨てずフックだけ交換するのが基本です。シャープナーで研いで使い続けるのも有効です。
ワームは折れても使える
ワームは魚に噛まれて折れても、短くなった状態で再利用できることがあります。アジングやメバリングでは小さいワームが有効な場面も多く、折れたワームを半分にカットして使うのはアングラーの間では常識に近い。塩漬け保存すれば長期保存もできます。
道具のメンテナンスで寿命を延ばす
釣行後の水洗い
リールとロッドを毎回真水で洗うだけで、寿命が大きく変わります。塩分が金属部品の腐食を進めるためです。リールはシャワーで軽く流す程度で十分——ドラグを締めて、水をかけて、軽く拭いて陰干しするだけです。
ガイドリングのチェック
ガイドリングにキズや欠けがあると、そこでラインが傷んで高切れの原因になります。指でリングの内側を触って引っかかりがないか定期的に確認してください。早期発見すれば、リングだけ交換(ガイド修理)でロッドを生かせます。
釣りというレジャーがいかにプラスチックに依存しているかを、今回の出来事が改めて可視化しました。
店長の結論
釣りはプラスチックなしには成立しないレジャーです
江戸時代の釣り人はテグス(蚕由来の自然素材)で釣っていました。竿は竹、針は骨や金属でした。現代の釣りが江戸時代と最も大きく変わった点のひとつは、道具のほとんどが石油化学製品になったことです。
ホルムズ海峡の問題が長期化すれば、釣具の価格と供給に影響が出ます。それがいつ、どの程度になるかは現時点では分かりません。
今できることは、状況を正確に理解して、持っている道具を丁寧に使い続けることです。
Tsuricastの各スポットページで釣り場情報を確認する →
本記事は2026年5月時点の情報をもとにしています。ナフサ・原油の供給状況は刻々と変化しています。最新情報は経済産業省・資源エネルギー庁の公式発表をご確認ください。釣具への具体的な影響はメーカー・販売店にお問い合わせください。