先輩から60cmのマゴチをもらった話|「大きい方をあげる」の真意は分からない
「2本釣れたから1本やるよ。大きい方だぞ」
ある日、先輩がクーラーボックスを抱えて店に来ました。中には2本のマゴチ。
「2本釣れたから1本やるよ。大きい方だぞ」
ありがたく受け取って、家に帰ってメジャーを当てたら59cm。先輩がキープしたのは40cmくらいでした。
「大きい方をあげる」は一見親切ですが、マゴチで「大きい方」は処理が大変な方です。先輩が処理しやすいサイズを自分でキープしたのか、本当に親切心で大きい方をくれたのか——その真意は今も分かりません。
「わらしべ長者してきた」
そもそも先輩はどうやってマゴチを釣ったのか。
「ハゼはエサ屋さんで売ってるんだけどさ、余ったジャリメで『わらしべ長者』してきた」
先輩の説明を整理すると、こういう流れです。
- キス釣り用にジャリメを買う
- キス釣りで余ったジャリメを使って東海ふ頭公園でハゼを釣る
- 釣ったハゼを生かしたまま東扇島西公園に移動
- ハゼをエサに「のませ釣り」でマゴチを狙う
- 60cm近い大物と40cmが釣れた
「わらしべ長者」という言葉の使い方が独特ですが、確かに「ジャリメ→ハゼ→マゴチ」と価値が上がっているので、語感としては合っています。
マゴチは「夏フグ」と呼ばれる高級魚
シマノ公式では、マゴチは「砂地の海底に生息するフィッシュイーター」と紹介されています。釣り人の中ではゲームフィッシュとしての知名度がありますが、食材としてはあまりスーパーで見かけない魚です。
それもそのはず、マゴチは関東で「夏フグ」と呼ばれるほどの高級魚です。6〜8月の旬には、料亭で薄造りが高値で取引されます。淡白で上品な白身、フグのような歯ごたえ。スーパーで「マゴチ」を見かけないのは、漁獲量が少なく、流通する前に料亭などに卸されてしまうためです。
つまり、釣り人だけが家庭で食べられる魚です。
マゴチのおろし方は難物
ここからが本題です。マゴチを家で捌くのは、はっきり言って難しい。
Honda釣り倶楽部の捌き方解説を読むと、
マゴチの血合骨は身に深く食い込んでいる「巻き骨」なので、一般的な3枚おろしのようにあとから血合骨を抜き取ることは難しい
とあります。マゴチの中骨周辺の血合骨は「巻き骨」と呼ばれる構造で、身に深く食い込んでいる。普通の三枚おろしで身を取ろうとすると、骨ごと持って行かれるか、身が大量に残るかのどちらかになります。
このため、マゴチには五枚おろしが推奨されます。背身と腹身を別々におろす方法で、ヒラメやカレイと同じ構造です。
Honda釣り倶楽部の手順は、
- ウロコを引き落とす(ヌメリが多いので軍手着用推奨)
- 胸ビレ・腹ビレに沿って両脇から包丁を入れて頭を外す
- 内臓を取り出す(夏場は子持ちが多く、卵は煮付けに)
- 背身を中骨に沿って切り開く
- 尾の付け根から包丁を入れて半身を切り取る(反対側も同じ)
文章で書くと簡単そうですが、59cmのマゴチを家庭のまな板で捌くのは現実的に難しい。まずまな板に乗りきりません。頭を落としても、頭だけで15cm以上あります。
わたしも何度かマゴチを捌いていますが、いまだに正解が分かりません。Honda釣り倶楽部の手順通りにやっても、毎回どこかで失敗します。中骨に身が残ったり、皮が破れたり、血合骨で手を切ったり。マゴチを綺麗に五枚おろしできる人は、相当な経験者だと思います。
わたしの自己流:三枚おろし+骨抜き
正解の五枚おろしができないので、わたしは家庭的な方法でしのいでいます。
普通の三枚おろしのように背骨に沿って包丁を入れて身を取り、残った血合骨は骨抜き(毛抜きの大きいやつ)で1本ずつ抜く。
Honda釣り倶楽部の解説では「巻き骨なので抜き取ることは難しい」とされていますが、骨抜きで地道に1本ずつ引っ張れば抜けます。確かに時間はかかりますが、五枚おろしで失敗して身を骨に残すよりも、下手でも身が多く残るのがこの方法の利点です。
家庭で年に数回しかマゴチを捌かない人にとっては、五枚おろしの技術を磨くより、骨抜きの作業に時間をかける方が現実的だと思います。
家庭で扱うなら、スーパーや魚屋さんで「マゴチをもらったんですけど、おろしてもらえますか」と相談するのも選択肢です。プロに任せた方が早く綺麗に終わります。
60cmを一人で食べきる難しさ
仮に綺麗におろせたとして、次の問題は量です。
59cmのマゴチから取れる身は、可食部で500g以上。これは家族4人分の刺身としても十分な量です。60cmマゴチを1人で食べきるのは現実離れしています。
しかも、全部天ぷらにすると胸焼けします。マゴチは淡白な白身ですが、天ぷらは衣が脂を吸うので、量が多いと胃に来ます。60cm一尾を天ぷらだけで消化するのは、健康な大人でもキツい。
そこで友達を呼びました。一人で食べきれないものは、人を呼んで一緒に食べる。これが釣り人の現実解です。
マゴチ料理のローテーション
友達を呼ぶ前提なら、調理法のローテーションが組めます。
薄造り(メインディッシュ)
マゴチジャパンによると、マゴチの定番は薄造りです。フグの薄造りと同じ要領で、皮を引いて極薄に切り、ポン酢で食べる。マゴチが「夏フグ」と呼ばれる所以の食べ方です。
新鮮なマゴチでないと薄造りは難しいので、釣り人だけが家庭で再現できる料理です。スーパーのマゴチでこれをやろうとすると鮮度が足りません。
洗い
夏向けの食べ方。薄切りにした身を氷水でキュッと締めて、コリコリの食感を楽しむ。ORETSURIでも紹介されている、夏のマゴチの定番調理法です。
ポン酢か、醤油+わさび、または酢味噌で食べます。
天ぷら(少量に抑える)
天ぷらは美味しいですが、全部やると胸焼けします。全体の1/4くらいに抑えるのが現実的です。
大葉で巻いて揚げると、爽やかさが加わって食べやすくなります。そうめんと合わせるのも夏らしくてよいですね。
潮汁・アラ汁
頭・骨・カマからは良い出汁が出ます。これを捨てるのはもったいない。
ORETSURIでも「マゴチはアラからコラーゲン成分をふくめた出汁がでるため、味に深みが出ます」と紹介されています。
アラに熱湯をかけて霜降り処理してから、水・塩・酒で煮るだけで、本格的な潮汁になります。マゴチの旨味を全部使い切る調理法です。
子持ちなら煮付け
夏場のマゴチは子持ちが多く、卵を煮付けにすると上品な味です。Honda釣り倶楽部でも「卵はきれいに取り出したあと煮付けにすると美味しい」と紹介されています。
持ち帰り処理
マゴチは鮮度落ちが早い魚です。
- 釣ったらすぐに活け締め(エラに包丁を入れて血を抜く)
- 海水氷を入れたクーラーで冷却
- 帰宅後は内臓を出して、ラップに包んで冷蔵庫へ
シログチの記事でも書きましたが、白身魚でも鮮度落ちが早い魚は、釣り場での血抜きが必須です。先輩からもらったマゴチは、ちゃんと血抜きしてくれていました。

葵ちゃんのまとめ
本記事の捌き方とレシピは、Honda釣り倶楽部・シマノ公式・マゴチジャパン・ORETSURIの各サイトを参考にしています。マゴチは鮮度落ちが早い魚です。釣ったら速やかに血抜きと冷却をしてください。
先輩から59cmのマゴチをもらった日、捌くのに時間がかかり、量的にも一人では食べきれず、友達を呼んでマゴチ尽くしの会にしました。薄造り・洗い・天ぷら・潮汁のフルコース。「これスーパーで売ってるの?」と聞かれたので、「いえ、釣り人の特権です」と答えました。
マゴチは確かに美味しい魚です。「夏フグ」の呼び名は伊達じゃない。
ただし、おろし方は今でも正解が分かりません。Honda釣り倶楽部の手順を見ながら何度か挑戦していますが、毎回どこかで失敗します。マゴチを綺麗におろせる人は、本当にすごい技術の持ち主だと、捌くたびに思います。
「大きい方をあげる」と先輩が言ったとき、それが親切心だったのか、処理が楽な方を自分でキープしたかったのか、今も真意は分かりません。先輩は多くを語らない人なので、これからも分からないままでしょう。次にマゴチをもらうことがあったら、サイズを聞いてから受け取るかどうか考えたいと思います。