釣り人の手がボロボロになる理由と「もっと愛を注ぎなさい」の話

先輩の手がひどいことになっていた

冬のある日、先輩が店に来たとき手を見て驚きました。指先はささくれだらけ、手の甲は粉を吹いていて、指の関節にひび割れが入っている。「痛くないんですか」と聞いたら「慣れた」と言っていましたが、明らかにまずい状態でした。

先輩は冬場に毎週のように砂浜で投げ釣りをしています。ジャリメを素手でつけて、海水で手を洗って、風に吹かれて、帰宅後にざっと手を洗って終わり。これを毎週繰り返していたら、そうなります。

皮膚科に行ったら「もっと愛を注ぎなさい」と言われたそうです。つまり「もっとこまめにクリームを塗りなさい」ということです。1日に何度も頻繁にハンドクリームを塗るようにしたら、翌シーズンは大丈夫だったと。

先輩の手が治ったのは道具でもテクニックでもなく、「帰ってから手に愛を注いだ」からでした。


なぜ釣り人の手は荒れるのか

釣り人の手荒れは単一の原因ではなく、複数の要因が同時に襲ってくる「複合攻撃」です。

塩水

海水は塩分濃度が約3.5%あり、手の皮脂膜を溶かし出します。皮脂膜は肌の表面を覆って水分の蒸発を防ぐバリアですが、塩水に繰り返しさらされるとこのバリアが剥がされます。バリアを失った肌は乾燥し、外部刺激に対して無防備になります。

仕掛けを回収するたびに濡れた糸を触り、魚を掴み、手を海水で洗う。1回の釣行で何十回も塩水に触れています。

エサ(イソメ・オキアミ)の体液

アオイソメやジャリメの体液にはタンパク質分解酵素が含まれています。これが皮膚のタンパク質に作用して、刺激を与えます。エサをつけるたびに指先にこの酵素が付着し、洗い流さないまま次の作業をすると、皮膚へのダメージが蓄積します。

オキアミも同様で、体液が手に残ると肌荒れの原因になります。アミエビを素手で触り続けるサビキ釣りでも手荒れは起きます。

冬の海風は冷たくて乾いています。濡れた手に風が当たると、水分が蒸発する際に肌の水分も一緒に奪われます(気化熱による乾燥)。塩水で濡れた手に風が当たる状況は、乾燥のダブルパンチです。

水洗い後の処理不足

釣り場で手を洗った後、タオルで拭かずにそのまま放置するケースが多いです。水分が蒸発するときに皮脂も一緒に持っていかれます。「洗って拭かない」は「洗わない」より手荒れを悪化させることがあります。

冬場の特殊性

寒さで血行が悪くなると、皮膚の回復力が落ちます。ダメージを受けても修復が追いつかない。夏は多少荒れても自然に治りますが、冬は一度荒れると長引きます。


つまり、こういうことが毎回起きています

塩水で皮脂バリアが剥がれる
↓
イソメの体液で刺激を受ける
↓
風で水分が奪われる
↓
洗っても拭かないので乾燥が進む
↓
冬場は回復も遅い
↓
翌週また同じことをする
↓
手がボロボロになる

先輩の手がひどくなったのは、この循環が毎週繰り返されていたからです。


釣行前にできること

ハンドクリームを塗ってから行く

釣りに行く前にハンドクリームを塗っておくだけで、皮脂バリアの代わりになる保護膜ができます。できれば撥水性のあるタイプ(水仕事用のプロテクトクリーム)が釣り場向きです。水に濡れても落ちにくく、バリアが持続します。

ニトリル手袋を持っていく

エサをつけるとき・魚を掴むときだけでもニトリル手袋をはめると、イソメの体液と塩水の直接接触を防げます。薄手なので指先の感覚も残ります。使い捨てなので予備を何枚かジップロックに入れておくといいです。

フィッシンググローブ

指切りタイプのフィッシンググローブは手の甲と指の側面を守れます。指先は露出しますが、ライン操作や仕掛け作業に支障がありません。冬場は防寒にもなります。


釣行中にできること

エサを触ったら早めに拭く

イソメの体液を手に付けたまま放置しないでください。ウェットティッシュか水を含ませたタオルでこまめに拭くだけでダメージが減ります。

海水で洗った手は真水で流し直す

釣り場に水道があるなら、帰り際に真水で手を洗い直してください。塩分を残したまま帰ると、帰路の間ずっと乾燥が進みます。水道がない場合は、ペットボトルの水を持参して手を流すだけでも違います。

拭いたらクリームを塗る

釣り場でも塗り直してください。水に触れるたびにクリームは落ちます。ポケットに小さいハンドクリームを1本入れておく習慣をつけると、帰宅後のダメージがかなり違います。


帰宅後にやること

手洗い後すぐに保湿

帰宅したら石鹸で手を洗って、すぐにハンドクリームを塗ってください。「すぐに」が大事です。洗った後の肌は水分が蒸発しやすい状態で、何も塗らずに放置すると洗う前より乾燥します。

寝る前にもう一度塗る

お風呂上がりにもう一度塗る。これで翌朝の手の状態が変わります。ひどい場合はクリームを塗った上から綿の手袋をはめて寝ると、朝にはかなり回復しています。


「愛を注ぐ」とは何だったのか

先輩が皮膚科で言われた「もっと愛を注ぎなさい」を翻訳すると、こういうことです。

1日に1回ではなく、手を洗うたび・水に触れるたびにハンドクリームを塗る。朝起きたとき、釣りに行く前、釣り場でエサを触るたび、帰宅後、お風呂上がり、寝る前——最低でも1日5〜6回。

先輩はこれを実践したら翌シーズンは手荒れが出なかったと言っています。道具もテクニックも変えていません。変えたのはクリームを塗る回数だけです。


ひどい場合は皮膚科へ

ひび割れから血が出ている、かゆみが止まらない、市販のクリームを塗っても改善しない——こういう場合は迷わず皮膚科を受診してください。手荒れが進行すると手湿疹になることがあり、市販品では対応できない段階に入っています。

「たかが手荒れ」で放置すると、竿を握るのも仕掛けを結ぶのも痛くなります。釣りそのものに支障が出る前に、早めに受診してください。


葵ちゃん

葵ちゃんのまとめ

先輩の手がボロボロだった冬を見ているので、わたしは釣行前のクリームと、エサを触ったらすぐ拭くことを徹底しています。エギングはイソメを使わないのでエサの刺激は少ないですが、塩水と風は同じです。冬のナイトエギングの後は手がかなり乾燥します。

道具の手入れはみんなちゃんとやるのに、自分の手の手入れはサボる人が多いです。リールにはオイルを注すのに、自分の手にはクリームを塗らない。道具より先に手を整えてください。

先輩の皮膚科の先生の「もっと愛を注ぎなさい」は、釣り人全員に聞かせたい言葉です。手にクリームを塗る回数を増やすだけで、翌シーズンの手が変わります。高い道具を買うよりよっぽど効果的な投資です。


手荒れの原因や症状は個人によって異なります。症状が改善しない場合は皮膚科を受診してください。本記事は釣具店での接客経験と、スタッフの実体験をもとにした内容です。