「去年釣れた場所で今年釣れない」を科学で説明する|水温・比熱・回遊の話
釣り人の経験則には、説明できる理由があります
釣りを続けていると、いくつかの「なぜ?」が蓄積されてきます。
去年と同じ場所・同じ時期・同じ仕掛けで釣りをしているのに、今年は釣れない。釣れ始める時期が毎年ズレる。アジが例年より遅い。10月なのに海がまだ夏の雰囲気をしている。
これらは「運が悪かった」で片付けられることが多いですが、実は水の物理的な性質と魚の生態から説明できるものが多い。
この記事では、釣り人が感じる「あるある」を科学的に整理します。
まず「水は温まりにくく冷めにくい」を理解する
すべての話の起点になる物理の話です。
「比熱」とは1グラムの物質を1℃上げるために必要な熱量のことです。水の比熱は空気の約4倍です。つまり同じ熱量を与えても、空気は4倍速く温まり、水は4倍ゆっくり温まる。冷めるときも逆で、水は4倍ゆっくり冷めます。
これが釣りに直結します。
春になって気温が上がっても、海水温はなかなか上がりません。秋になって気温が下がっても、海水温はまだ高いまま続きます。「海の季節は陸の季節より1〜2ヶ月遅れる」という経験則の物理的な根拠がここにあります。
カレンダーで釣りを計画すると外れる最大の理由のひとつが、この比熱の差です。
「釣れ始める時期が毎年違う」
同じ5月に行っても、去年は釣れたのに今年はまだ早かった——この現象は比熱の影響に加えて、複数の要因が重なって起きます。
前年の冬の寒さが影響する
厳冬だった年の翌春は、海水温の上昇が遅れます。冬に大きく冷えた海は、同じ春の気温でも温まるのに時間がかかります。逆に暖冬の翌春は早くから海水温が上がり、魚の接岸が早まります。
黒潮の位置が変わる
黒潮は年によって流路が変わります。黒潮が岸に近い年は暖かい水が沿岸に届きやすく、海水温が上がりやすい。黒潮が沖を流れる年は冷たい水が残りやすい。
エルニーニョ・ラニーニャの影響
エルニーニョ発生年は日本近海の海水温が上がりにくく、シーズンが遅れやすい。ラニーニャ発生年は逆に早まる傾向があります。
同じ「5月」でも、海の中の状況は毎年違います。カレンダーより水温を確認してから釣行判断をする方が精度が上がる理由がここにあります。
「去年は手前で釣れたのに、今年は遠い」
同じ釣り場で、去年は20メートル先で釣れていた魚が今年は60メートル先にいる——これも水温で説明できます。
魚にはそれぞれ適水温があります。シロギスなら14〜28℃、アジなら15〜28℃前後が活動域の目安です。
水温が低い年・まだ上がり切っていない時期は、沿岸の浅場は水温が低くなります。魚はより水温が安定している沖の深場に留まります。つまり「適水温の等温線」が沖にある状態です。
逆に水温が上がった年・盛夏は、浅場が温まりすぎて魚が適水温を求めて深場に落ちることがあります。
「遠投しないと届かない」のは、その年の水温分布が例年と違うからかもしれません。Tsuricastの各スポットページで水温を確認してから釣行距離の作戦を立てるとズレが小さくなります。
「今年はアジが回ってこない」
回遊魚の回遊ルートは、3つの要素で変わります。
水温
アジは適水温の水塊を追って移動します。水温が低い年は南に留まり、北上が遅れます。逆に高い年は例年より北まで回遊することがあります。
餌(ベイトフィッシュ)
アジはプランクトン・小魚を追って回遊します。餌が少ない年・餌が別の場所に集まっている年は、アジが別のルートを通ります。
潮流
潮の流れが変わると、プランクトンの分布が変わり、それを追う小魚の分布が変わり、アジの回遊ルートが変わります。黒潮の蛇行が例年と違う年は、青物・回遊魚の分布が大きく変わることがあります。
「アジが来ない」は運ではなく、水温・餌・潮流のどれかまたは複数がずれた結果です。ただし「どれがどうずれたか」を釣り場で即座に判断するのは難しく、複数の釣り場をランガンして探すか、地元の釣具店の情報を頼るのが現実的です。
「朝マズメより夕マズメの方が釣れた」
朝マズメが釣れるという経験則は広く知られていますが、夕マズメの方が釣れる日があります。
理由のひとつが日中の表層水温の上昇です。特に夏場・晴天の日は、太陽光で表層の海水温が急上昇します。魚の適水温を超えてしまうと、魚は深場か日陰に落ちます。
夕方になると太陽が傾き、表層水温が少し下がります。魚が浅場に戻ってくる——これが夕マズメに活性が上がる一因です。
朝マズメが有利な日と夕マズメが有利な日は、その日の天候・気温・水温によって変わります。「絶対に朝マズメ」ではなく、当日の状況を読む方が釣果につながります。
「10月なのにまだ夏の釣れ方をしている」
これは比熱の話に戻ります。
10月の気温はすでに秋ですが、海水温は夏の高さを保っていることがあります。特に暖秋の年・黒潮が近い年は、11月になっても海水温が夏並みのままという状況が起きます。
魚の行動は気温ではなく水温に連動しています。水温が高ければ夏の行動パターンを続けます——浅場に居続ける、活発に餌を追う、産卵を遅らせる、など。
「10月なのに青物がまだ入れ食い」「落ちギスの時期が例年より遅い」という現象はここから来ています。逆に「9月なのにもう秋の釣れ方をしている」という年は、台風や北からの冷水で水温が早く下がった可能性があります。
「雨の後は釣れる気がする」
この経験則にも説明できる要素があります。
表層の塩分濃度が下がる
雨水は真水です。海面に降り注ぐことで表層の塩分濃度が一時的に下がります。汽水域を好むクロダイ・スズキはこの変化に敏感で、活性が上がることがあります。
水温が下がる
夏場の雨は表層の高水温を下げます。適水温に戻ることで魚の活性が上がる場合があります。
酸素が供給される
雨が海面を叩くことで空気中の酸素が溶け込みます。溶存酸素量の増加は魚の活性向上につながります。
ただし「必ず釣れる」ではありません。大雨の後は濁りが入りすぎてキス・ハゼ・アオリイカには逆効果になります。雨の規模と魚種の組み合わせで判断が変わります。
「大潮の日が必ずしも釣れるわけではない」
「大潮=釣れる」は半分正しくて半分違います。
大潮は満潮と干潮の潮位差が最大になるタイミングです。潮位差が大きいということは、潮の流れが強くなります。流れが生まれることで、プランクトンが動き、小魚が集まり、大型魚が捕食しやすくなる——これが「大潮が釣れる」という経験則の根拠です。
ただし流れが強すぎると、魚が流れに逆らって泳ぐのに体力を使い、餌を追う余力がなくなります。また仕掛けが流されて釣りにならない場合もあります。
大潮でも「潮が動き始めるタイミング(上げ3分・下げ7分)」が有効で、潮が最も速く動いているときは必ずしも釣れやすくない。潮の動きを時系列で読む方が、大潮か小潮かという区分より実釣に役立ちます。
店長の結論
釣れない理由は「運が悪かった」ではなく「水温と潮流がズレていた」かもしれません
釣り人が感じる「あるある」のほとんどは、水の物理的な性質・魚の適水温・回遊ルートの変化から説明できます。
完全に予測することはできません。でも「去年と同じ条件のはずなのに」という違和感を「水温が違うかもしれない」「黒潮の位置が変わったかもしれない」という仮説として考えられるようになると、次の釣行の判断精度が少し上がります。
Tsuricastでは各スポットの水温・潮汐データを提供しています。カレンダーではなく水温を見て釣行を計画してみてください。
本記事の内容は一般的な傾向をもとにした解説です。実際の釣果は当日の海況・天候・地域特性によって大きく異なります。