東京湾の富栄養化はなぜ起きているのか|下水道・赤潮・青潮と釣り場の話

大雨が降るたびに、東京湾には未処理の汚水が流れ込んでいます

東京都23区の約8割は、「合流式下水道」という仕組みで整備されています。

合流式とは、家庭や工場からの汚水と、道路に降った雨水を同じ1本の管に流して下水処理場に送る方式です。昭和30年代、東京が急速に都市化するなかで、早く安く整備できる合流式が採用されました。その後、多くの都市では汚水と雨水を別の管に分ける「分流式」が標準になりましたが、東京23区の大部分はその後も合流式のまま残っています。

この仕組みには構造的な問題があります。晴天のときは汚水を処理場で適切に処理して放流できますが、強い雨が降ると話が変わります。処理場に集まる水の量が処理能力(晴天時の3倍まで)を超えてしまうため、超過分は「雨水吐き(うすいばき)」と呼ばれる700か所以上の出口から、未処理のまま川に放流されます。そのまま川を流れて東京湾に入ります。

東京オリンピックのトライアスロン会場となったお台場でも、この問題が指摘されました。大雨の翌日に糞便性大腸菌の数値が基準値の数十倍に達することがあり、国土交通省のデータでも雨天時の放流水の汚濁濃度が明確に示されています。


富栄養化はどうして起きるのか

汚水が流れ込むことは、東京湾に大腸菌の問題とともに、「富栄養化」という問題も引き起こします。

富栄養化とは、海水中の窒素・リンなどの栄養塩類が過剰になる状態です。これらは家庭の生活排水(料理・洗剤・トイレ)や工場排水に多く含まれています。東京・神奈川・千葉・埼玉の人口集中地帯を流れる多摩川・荒川・江戸川・鶴見川などの河川が東京湾に注ぎ込み、大量の窒素・リンを運び込んでいます。

東京湾は南が開いているものの、三方を陸地に囲まれた閉鎖性の高い内湾です。外洋との水の交換が少ないため、流入した栄養塩が湾内に蓄積されやすい地形です。

1979年から東京湾の水質総量規制が始まり、下水道整備などの対策でCOD(化学的酸素要求量)は44%、窒素は57%、リンは37%削減されています。数字だけ見ると大幅な改善です。しかし問題は解消していません。

理由は「海底の泥」にあります。過去数十年間に蓄積した窒素・リンが湾底の泥に堆積しており、これが今も海水中に溶け出し続けています。陸からの流入を減らしても、過去の蓄積が「内部負荷」として富栄養化を維持し続けているのです。


赤潮——夏の東京湾では「定常状態」です

富栄養化した海では植物プランクトンが異常増殖します。これが赤潮です。

東京都環境局の調査によると、東京湾内湾では赤潮の年間発生日数は夏季を中心に90日程度で推移しており、夏場は赤潮状態が定常化しています。つまり夏の東京湾の「普通の状態」が赤潮です。

赤潮が発生すると何が起きるか。植物プランクトンが爆発的に増え、大量に死んで海底に沈みます。それをバクテリアが分解する際に大量の酸素が消費され、海底付近が酸欠状態(貧酸素水塊)になります。魚は酸素を求めて水面近くに上がってきたり、ひどい場合は大量死します。

「フグのアタリさえなかった」という日は、この貧酸素状態が原因のことがあります。


青潮——海が乳白色に変わる現象

赤潮の次の段階が青潮です。

海底に蓄積した貧酸素水塊には硫化水素が含まれています。北風が吹いて表層水が沖に押し出されると、底層の貧酸素水塊が湧き上がって表層に広がります。硫化水素が空気中の酸素と反応して海面が乳白色・乳青色に変わる——これが青潮です。

青潮が発生した海域ではほぼ釣りになりません。魚が消えます。アサリなど底生生物の大量死が起きることもあります。三河湾・伊勢湾でも同じ現象が起きますが、東京湾は閉鎖性が高く湾底に窪みがあるため、特に青潮が発生しやすい環境です。


アマモ場の減少と富栄養化の悪循環

富栄養化の問題をさらに複雑にしているのが、アマモ場の減少です。

アマモは沿岸の浅場に繁茂する海草で、海水中の窒素・リンなどの栄養塩を吸収して水質を浄化する機能があります。「海のゆりかご」とも呼ばれ、魚の産卵・育成の場としても重要な存在です。

しかし高度成長期以降、沿岸の開発・埋め立て・海水の透明度低下によってアマモ場は全国的に大幅に減少しました。東京湾でも同様で、国土交通省や民間団体がアマモ場の「再生」プロジェクトを続けているのは、それだけアマモが失われた状態が続いているからです。

アマモ場が減ると、栄養塩を吸収する力が弱まり、富栄養化が進みやすくなります。富栄養化が進むと赤潮が発生して海水の透明度が低下し、光が届かなくなったアマモがさらに生育しにくくなる——悪循環が起きます。

釣り場への影響として、アマモが適度に繁茂している場所はアオリイカの産卵場として機能します。アマモ場の減少は産卵場の喪失にもつながります。


なぜ改善が難しいのか

東京湾の富栄養化がなぜ解消しないかは、複数の要因が絡んでいます。

合流式下水道の構造問題:大雨のたびに未処理の汚水が流れ込む問題は、インフラを根本から作り替えない限り解消しません。東京都は改善施設の整備を進めていますが、23区全体の合流式下水道を分流式に変えるには膨大なコストと時間がかかります。

海底の内部負荷:過去数十年間に蓄積した窒素・リンが湾底の泥から溶け出し続けています。陸からの流入を止めても、この蓄積が解消されるには長い時間がかかります。

閉鎖性地形:東京湾の地形は変えられません。外洋との水の交換が限られる構造は、富栄養化が進みやすい条件として固定されています。


店長の結論

釣り場の「なぜ」を知ると、判断が変わります

赤潮が出ているときは魚が消える。大雨の翌日はアタリが減る——これらはすべて、東京湾という海の構造から来ています。

嘆くことはできますが、釣り人一人が変えられる話ではありません。釣りに行く前に赤潮・青潮の発生状況を確認する、大雨の翌日の釣行計画を見直す——そういった判断の精度を上げることが、今の東京湾と向き合う方法です。

Tsuricastでは各スポットの海況・水温データを提供しています。赤潮・青潮の発生状況は以下の機関が公開しています。

釣り場の海況を確認する →


本記事の水質データは東京都環境局・国土交通省・千葉県の公開資料をもとにしています。赤潮・青潮の発生状況は年・季節によって異なります。最新情報は各都県の環境関連機関でご確認ください。