大雨の後、海はどうなっているのか|水潮と回復の目安

知り合いが神奈川県企業庁のLINEを登録しています。引っ越しの際に水道の手続きで登録したそうですが、ダムの緊急放水の通知も届くらしい。

大雨のたびに放水通知が来ると「あと数日は釣れないだろうな」と思うと言っていました。なぜそう判断できるのか。大雨→ダム放流→河川増水→海への淡水流入、という一連の流れが海の状態を変えているからです。

釣り人が「大雨の後は釣れない」と感じる現象には「水潮(みずしお)」という名前がついています。


淡水の影響 塩分濃度が変わる

水潮は、大量の雨水が河川を通じて海に流れ込み、海水の塩分濃度が急激に下がる現象です。

海水の塩分濃度は通常約3.5%ですが、大雨の後は河口付近でこの数値が大きく低下します。淡水は海水より軽いため、真水が海水の上に層のように重なります。表層が淡水に近い状態、底層は通常の海水という二層構造(二枚潮)ができます。

塩分濃度の変化に敏感な魚は、居心地が悪くなって沖や深場に移動します。移動しない魚も食い気が落ちて餌を追わなくなります。「昨日まで釣れていたのに今日は何も来ない」という状況の原因が、目に見えない塩分濃度の変化であることは珍しくありません。

塩分濃度の回復は、潮の動きによる海水の入れ替わりに依存します。大潮や中潮のタイミングで外洋の海水が入り込めば回復が早まります。


土砂の影響 濁りが入る

淡水の流入とは別に、河川が運んでくる土砂による濁りも釣果に影響します。

大雨で増水した河川は、上流から大量の土砂・泥・有機物を運びます。これが河口から海に広がると、海が茶色く濁ります。濁りが強すぎると、視覚に頼って餌を探す魚は餌を見つけられなくなります。

濁りの回復は、土砂の沈降と潮流による拡散に依存します。塩分濃度の回復とは仕組みが違い、粒子が沈んで透明度が戻るまでの時間がかかります。河口付近では濁りの方が塩分より長引くこともあります。

ただし適度な濁り(笹濁り)は魚の警戒心を下げるため、むしろプラスに働くこともあります。問題は「泥水」レベルの濁りです。


ダム放流が水潮を大きくする

大雨が降ったとき、雨水が直接海に落ちるだけではそこまで大きな水潮にはなりません。問題は河川を通じて流れ込む淡水の量です。

ダムが緊急放流を行うと、通常の河川流量を大きく超える量の水が一気に下流に流れます。これは大雨で降った雨が山の集水域からダムに集まり、ダムの貯水能力を超えた分を下流に流す操作です。

つまりダム放流が起きると、大雨による河川の増水に加えて、ダムから放出された大量の水が上乗せされます。河口から海に流れ込む淡水の量が通常の大雨をはるかに超え、水潮の範囲と深刻度が格段に上がります。

知り合いが「放水通知が来たら数日釣れない」と判断するのはこの仕組みを体感で知っているからです。


河口に近いほど影響が大きい

水潮の影響は均一ではありません。

河口付近:最も影響が大きい。大量の淡水が直接流れ込み、塩分濃度が極端に下がります。茶色い濁り水がそのまま海に広がっている状態で、目で見て分かるほどの変化です。回復も最も遅く、1週間以上かかることがあります。

河口から離れた堤防・砂浜:河口からの距離に応じて影響が薄まります。表層は淡水の影響を受けていても、底層は比較的塩分が保たれていることがあり、底を狙う釣りなら成立する場合もあります。

沖に面した磯・外洋側の堤防:潮通しが良い場所は淡水が滞留しにくく、影響が最も軽い。大雨の後でも沖からの潮が入り替わることで回復が早い場所です。

同じ日でも場所を変えるだけで状況がまったく違うことがあります。河口近くで釣れなかったら、河口から離れた場所に移動するだけで釣れることがある。


回復までの目安

淡水の影響と土砂の影響では回復の仕組みが違います。

塩分濃度の回復:2〜3日で部分回復、1週間でほぼ回復 雨が止んで河川の増水が引けば、表層の淡水は徐々に混合・拡散していきます。大潮・中潮の潮が大きく動くタイミングに当たれば、海水の入れ替わりが促進されて回復が早まります。まとまった大雨やダム放流があった場合でも、1週間経てば多くの場所で通常に近い状態に戻ります。

濁りの回復:塩分より遅れることがある 土砂の粒子が沈降して透明度が戻るまでには、塩分の回復よりも時間がかかる場合があります。特に河口付近では、塩分濃度は戻っているのに濁りだけが残っているという状況があり得ます。潮通しが良い場所ほど濁りの解消も早い。

魚種による違い キス・アオリイカ・タコは塩分濃度の変化に特に敏感で、水潮の影響が長引きやすい。シーバス・クロダイは汽水域で生活する耐性があり、水潮の影響を受けにくい。むしろ大雨後の河口はシーバスにとって好条件になることもあります。


ダム放流情報はネットで確認できます

大雨の後、海の状態を判断する材料のひとつがダムの放流情報です。

国土交通省「川の防災情報」(通称カワボウ) https://www.river.go.jp/

全国のダムの放流通知・河川水位・雨量がリアルタイムで確認できます。使い方はシンプルで、地域を選んで「発表情報」を開き、「ダム放流通知」タブを見るだけです。どのダムがいつ放流を開始したかが一覧で表示されます。自分の釣り場に注ぐ川の上流にあるダムが放流していれば、水潮の発生を予測できます。

各都道府県にも独自の防災情報システムがあり、県管理の河川やダムの情報を提供しています。自分が住んでいる県の防災ポータルサイトを事前に確認しておくと、大雨時にすぐ参照できます。

例えば神奈川県企業庁ではLINEで緊急放流を広報しています。相模川水系(相模ダム、城山ダム、道志ダム)、酒匂川水系(三保ダム)の放流情報が公開されています。河川付近の防災情報としての広報ですが、雨の後の海況変化を知ることにも使えます。相模川が注ぐ相模湾沿岸のポイント、酒匂川が注ぐ西湘エリアのポイントには大きな影響を与えるため、放流通知が来たら「河口から離れた場所を選ぶ」「数日待つ」という判断に直結します。水道の手続きで登録したLINEが釣行判断の材料になる、というのは思わぬ副産物です。


私の結論

大雨の後は、海を見る前にダムを見る

釣り場に着いてから「今日は濁りが入っているな」と判断するのでは遅い。大雨が降ったら、まずカワボウで上流のダムの放流状況を確認する。放流量が大きければ、河口近くは避けて沖向きの場所を選ぶか、2〜3日待つ判断ができます。

「大雨の後は釣れない」は正しいですが、もう少し正確に言うと「大雨の後は水潮が発生しているから、水潮の影響が薄い場所を選ぶか、回復を待つ」です。

水潮は見えません。ただダムの放流データは見えます。見える情報から見えない海の状態を推測する。これも釣りの技術のひとつです。

釣り場の海況を確認する →


本記事の回復目安は一般的な傾向です。実際の回復時間は雨量・河川規模・地形・潮回りによって大きく異なります。安全のため、増水中の河川や河口付近には近づかないでください。


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