釣り場の魚が変わりつつある|水温上昇と魚種変化の話

日本近海の水温が変わっています

気象庁の統計によると、2025年の日本近海の年平均海面水温の平年差は+0.96℃で、統計開始以来3番目に高い値でした。2023年・2024年・2025年と3年連続で上位3位以内に入っています。

長期的なトレンドで見ると、日本近海の海面水温は過去100年で約1.4℃上昇しており、これは世界平均の約2倍のペースです。

地球温暖化は、石炭を燃料とする産業革命以降、大気中のCO2濃度が上昇したことによるとされています。ただ、この変化は産業革命以降ずっと一定ペースで進んできたわけではありません。気象庁のデータを見ると、1970年代後半から上昇が明確になり、2010年代以降に加速しています。「夏がここ数年で急に暑くなった」という体感は正確で、海の中でも同じことが起きています。

日本近海が世界平均の2倍のペースで水温上昇している背景には、地球温暖化という長期的な要因に加えて、黒潮の変動という日本近海固有の要因が重なっています。2017年から2025年まで続いた「黒潮大蛇行」は1965年以降最長を記録しており、黒潮の流路の変化が日本近海の水温分布を大きく変えてきました。

この変化が釣り場に現れています。


等温線が北上している

魚の分布は適水温によって決まります。その適水温の等温線が、水温上昇とともに北に移動しています。

1℃の水温上昇は、等温線の位置に換算すると数十〜数百キロの北上に相当します。逆に「以前は関東で普通に釣れた魚が、今は東北に行かないと釣れない」という状況も起きています。

これは仮説ではなく、全国の釣り場で観測されている現象です。


南の魚が関東に現れ始めています

グルクン(ニセタカサゴ)が千葉沖・神奈川沖で釣れています

グルクンは沖縄の県魚です。熱帯・亜熱帯の魚として知られ、かつては関東近海で釣れることはまれでした。それが千葉沖・神奈川沖で水揚げされるようになっており、釣りたての個体は包丁がなまくらになるほどの脂の乗りだったという報告があります。

那覇市と房総半島南端の館山市の南北距離は約1,000kmです。「沖縄の県魚が関東沖に現れている」という現象は、適水温帯がそれだけの距離を移動してきたことを示しています。

ハタ類が三浦半島・東京湾に定住しています

キジハタ・アカハタ・オオモンハタは本来、九州・四国・紀伊半島あたりまでの分布とされていた魚です。それが三浦半島・東京湾周辺で常駐するようになっています。「一時的に北上してきた個体」から「定住して繁殖する個体」への変化が確認されると、分布域の変化は固定されていきます。

同様の変化は北でも起きています。北海道でブリの水揚げが急増し、青森・岩手でサワラが当たり前に釣れるようになりました。日本海ではアオリイカの北限が更新され続けています。


北の魚が消えています

南の魚が増える一方で、冷水を好む魚が関東から姿を消しつつあります。

久里浜海岸前の釣具店の店主はこう言います。「昔は当たり前だったアイナメが、今では年間1本見るか見ないかという珍しい魚になってしまいました」

アイナメ・ソイ・カレイ類——かつて東京湾・相模湾で普通に釣れていた北方系の魚が、適水温帯の北上とともに生息域を移しています。これらの魚は今も北海道・東北では釣れますが、関東以南での釣果は減少傾向にあります。

「この時期ならこれが釣れる、というこれまでの常識が通用しなくなってきています」という言葉は、一軒の釣具店の体感ではなく、等温線の北上という全国的な変化が身近な釣り場に現れた例です。


サンゴの北限が三浦半島・房総半島まで来ています

魚だけではありません。サンゴの分布も変化しています。

造礁サンゴの太平洋側での分布北限は現在、伊豆半島・三浦半島・房総半島一帯とされています。黒潮に乗って北上してきたサンゴが、水温上昇とともに定着できる範囲を広げてきました。

国立環境研究所の観測では、日本では水温上昇によって南では白化、北ではサンゴの分布北上が同時に観察されています。南の沖縄では高水温による白化・死滅が進み、北の関東近海では分布が広がる——同じ水温上昇が南北で逆の現象を引き起こしています。

サンゴが分布する海域は魚の多様性が高くなります。関東近海でダイバーが熱帯魚を見かけるようになったという報告が増えているのも、同じ文脈の話です。


釣り人への影響——変化に適応するしかない

水温の変化を釣り人が止めることはできません。

できることは、変化を知った上で釣りを更新することです。

アイナメが釣れなくなった場所でハタを狙う。北海道までブリを追いかけていく。関東沖でグルクンを狙うという選択肢が生まれる。変化は喪失でもありますが、新しいターゲットが増えるということでもあります。

ただそれでも、かつてよく釣れた魚が姿を消していくことには、何か寂しいものがあります。「昔はここでアイナメが釣れた」という記憶は、変化した海の前では記憶のままになります。

長年通い続けた釣り場で何かが変わっていると感じたとき、それは気のせいではないかもしれません。海は確かに変わっています。

Tsuricastでは各スポットの水温データを提供しています。釣行前に水温を確認する習慣が、変化する海を読む一助になります。

釣り場の水温・海況を確認する →
変わりゆく東京湾の海と釣りの今(関根釣具店インタビュー)→


本記事の水温データは気象庁の公開資料をもとにしています。魚種分布の変化については地域・年によって異なります。最新の海況はTsuricastの各スポットページでご確認ください。