子どもに釣りをやらせると個性が見えてくる|三浦海岸キス釣り行事の話

先輩が子ども釣り行事をやった

先輩が三浦海岸で子ども向けの釣り行事を開きました。事前に下見をして、駐車場とトイレの位置を確認して、ポイントの砂質と遠浅の具合を見て、当日に備えたそうです。

参加者は子ども8人と大人2人の計10人。ちょい投げでキスを狙いました。朝から11時くらいまで釣りをして、釣れたらその場で天ぷらパーティー。釣れなかった場合の保険として、先輩が事前にキスを開いて冷凍したストックを持参していました。天ぷらだけではお腹いっぱいにならないので、オードブルも用意する周到さです。

結果は17尾。全員に釣果があって、まあ良かったねという1日でした。

でも先輩がいちばん面白かったと言っていたのは、釣果の話ではなくて、子どもたちのそれぞれの反応でした。


虫エサへの態度が分かれる

子どもの反応がいちばん分かれたのは、エサの虫を触る場面です。

おじいちゃんの家の畑で収穫の手伝いをしている子は、虫エサにまったく抵抗がなかったそうです。土の中から出てくる生き物に慣れていると、ジャリメもアオイソメもただの虫。怖がる理由がない。

一方で、虫が得意じゃないお父さんもいました。子どもが待っているからとアオイソメに挑戦したら、案の定噛まれて大騒ぎしていたそうです。子どものためにがんばる姿は微笑ましいですけど、噛まれたときの叫び声は子どもたちのほうが冷静だったとか。


カニと命と涙

なぜかカニばかり釣れた女の子がいました。キスを狙っているのにカニ。何回投げてもカニ。

その子はカニを見て「持って帰って育てる」と言い始めました。水汲みバケツの中のカニを嬉しそうに眺めていたら、隣にいたお兄ちゃんが「すぐ死んじゃうよ」と言った。

女の子は号泣しました。

釣りの現場では、命の話がふいに出てきます。魚をクーラーボックスに入れる場面もそうだし、エサの虫が針についたまま海に投げ込まれる場面もそう。大人がわざわざ教えなくても、子どもは自分で何かを感じている。カニを育てたいと思った女の子の気持ちも、すぐ死ぬよと言ったお兄ちゃんの知識も、どちらも本当のことです。


食への執着が見える子

釣り行事では透明の水汲みバケツが観察の必需品です。釣れた魚を入れて、みんなで覗き込む。子どもたちはこの時間が好きで、魚が泳ぐのを飽きずに見ています。

ところが中学生が1人、釣れた魚を観察バケツに入れずにクーラーボックスに直接投げ込みました。「鮮度が落ちる」。

小学生からブーイングが起きました。

この中学生は天ぷらの魅力に完全に取り憑かれていたようで、先輩は「こいつは食のほうに行ったな」と笑っていました。自分で釣ったキスの天ぷらを食べたときの喜び方は、確かにこの日いちばんだったそうです。


自分でやりたい小学2年生

釣れた魚をさばきたいと言い出した小学2年生がいました。先輩が見せた後に包丁を渡したら、キスの開きに挑戦して、開くところまではやり遂げました。背骨がどうしても取れなかった。

でも「できなかった」とは言わなかったそうです。背骨が残ったキスをじっと見て、もう1回やるって顔をしていたと。


はにかんだ高校生

なかなか釣れない時間が続いた高校生がいました。周りの小学生がぽつぽつ釣っている中で、自分だけ釣れない。焦っているわけではなさそうだけど、静かに集中していた。

やっと釣れたとき、すごくはにかんで嬉しさを押し殺していたそうです。小学生なら「釣れたーー!」と叫ぶところを、高校生はちょっと照れくさそうに竿を上げた。年齢によって喜び方が違うのも、見ていて面白い。


先輩の裏方仕事

先輩が当日のために準備していたことを聞くと、行事の主催者がどれだけ裏方で動いているかが分かります。

ナイロンラインだとアタリが分かりにくく、「巻いたら魚がついてた」が多発したそうです。先輩はそれを見越して、その日のためにPE1号を1000m買っていました。ただ全リールに全巻きするのは大変なので、下巻きを半分くらい入れて節約したとのこと。

このPEを各リールに巻く作業を、先輩は小学生に任せました。「リールの持ち方こうだよ」と教えたら夢中でハンドルを回し始めて、先輩は「小学生発電機」と呼んでいました。

ところがこの下巻き節約が裏目に出ます。子どもたちが慣れてくると投げる距離がどんどん伸びて、午後には下巻きが出てくるくらい飛ばせるようになっていた。子どもの上達速度を甘く見ていたと先輩は苦笑していました。

リールサビキで仕掛けを巻く速度が速すぎる子がいたときは、竿を横にして竿先で仕掛けを引っ張るイメージをさせたそうです。竿先の動きで仕掛けの速度が目に見えるから、「もっとゆっくり」と言葉で伝えるより効果があった。子どもには視覚で教えるのがいちばん早い。


大人だって楽しい

行事なので子どもが主役ですが、大人の反応も面白かったそうです。

お母さんがシタビラメを釣りました。上がってきた魚を見て「なにこれ」と引き気味だったのに、先輩が「シタビラメですよ、ムニエルで有名なやつ」と教えたら、手のひらを返すように「これがあのムニエルの?」と目を輝かせていたとか。魚の見た目と料理名のギャップは、大人でも反応が出る。

先輩は「子どもに釣りをやらせると思って始めたけど、結局全員が何かを発見してた」と言っていました。


葵ちゃん

葵ちゃんのまとめ

忍耐力がつくとか食育になるとか、釣りの教育効果はよく言われますけど、先輩の話を聞いていて思ったのはもっとシンプルなことでした。

同じ釣りをしているのに、カニを育てたい子がいて、天ぷらに取り憑かれる子がいて、背骨が取れなくても諦めない子がいて、はにかんで喜ぶ子がいる。全員違う。釣りは子どもの個性を映す鏡みたいなもので、教育効果がどうこうという話ではなく、その子がどんな子なのかが見えてくる。

それと、下巻きが出てくるまで投げられるようになった子どもたちに、先輩は本気で驚いていました。朝はおそるおそる投げていたのに。子どもの伸びしろを大人が過小評価していたという話で、これは釣りに限らないかもしれません。