なぜヒトデは釣り針を食うのか|子どもに聞かれたときのための生態解説

「これ何ですか?」——釣具店でも聞かれます

お子さん連れのお客さんから「堤防でヒトデが釣れたんですけど、なんで針を食ってるんですか?」と聞かれることがあります。お父さんも答えに困っている顔をしています。

確かに不思議です。ヒトデはゆっくりしか動けない生き物のはずなのに、キス釣りで仕掛けを少し止めただけで上がってくる。しかも針を2〜3本同時にくわえていることもある。

調べてみたら、ちゃんと理由がありました。


ヒトデの口はお腹の真ん中にあります

まずヒトデの体の構造から整理します。

ヒトデの口は体の腹側、つまり海底に接している面の中央にあります。星型の体の中心です。

エサを食べるとき、ヒトデは獲物の上に体ごと覆いかぶさって、腹側の口を獲物に押しつけます。そしてそのまま胃を口から外に押し出して、体の外で獲物を消化液で溶かして食べます。

「胃袋を外に出して食べる」——お子さんに話すと100%驚きます。でもこれがヒトデの普通の食べ方です。口に入らないような大きな貝でも、胃を外に出して包み込めば食べられます。


ヒトデは「匂い」でエサを探します

ヒトデは目がほとんど機能していません。では何でエサを見つけるのかというと、匂いです。

体表全体に匂いを感じる細胞が分布しており、海水に溶けたエサの成分を感知して近づいていきます。その感度は非常に高く、遠くからでもアオイソメのような虫エサの匂いを察知できます。

この「匂いで探す」という捕食方法が、ヒトデが釣り針を食う理由に直結しています。


仕掛けを止めると釣れる理由

ヒトデの移動速度はとても遅く、速い種でも1分間に1メートル程度です。動いているエサには追いつけません。

ところが仕掛けを止めると何が起きるか。

海底に止まったアオイソメの匂いをヒトデが嗅ぎ取り、ゆっくり近づいてきます。そして体ごと覆いかぶさる。腹側中央の口が針の上に来た状態になり、胃を外に出してエサを溶かし始める——この状態で仕掛けを引き上げると、ヒトデが針をくわえた状態で上がってきます。

「釣れた」というより「乗っかられた」に近い状態です。


針を2〜3本同時にくわえている理由

仕掛けには針が複数あります。ヒトデが体ごと覆いかぶさると、体の中央の口が複数の針にまたがることがあります。

口が体の中央にある構造上、広い範囲を一度に覆えるため、針が2〜3本あっても同時にくわえることになります。「複数の針を器用に選んでいる」わけではなく、体の構造上そうなるということです。


ヒトデは実は「待ち伏せ」もします

「動きが遅いのに素早い生き物は食べられないはず」と思われてきましたが、2024年に北海道大学の研究グループが面白い行動を発見しました。

ヒトデが5本の腕を立てて体を持ち上げ、体の下に入ってきたカニに覆いかぶさる「五つんばい」と呼ばれる待ち伏せ行動です。ゆっくりしか動けないからこそ、「待って、来たところを覆う」という戦略を取っているわけです。

釣り仕掛けを止めると針を食われるのも、同じ発想です。ヒトデは動くものを追うのではなく、止まったものを待って覆う生き物なのです。


漁業でも問題になっています

ヒトデが止まったエサに集まる習性は、釣りだけの話ではありません。

瀬戸内海西部でのふぐ延縄漁の調査では、延縄に掛かった生物の55%以上がヒトデだったというデータがあります。北海道のホタテガイ漁場では、ヒトデによる食害が深刻な問題になっており、水温が高い季節には平均時速17.5メートルで移動するというデータも出ています。

「ゆっくりした生き物」というイメージは、実は半分しか正しくありません。


葵ちゃん

葵ちゃんのまとめ

先輩の三浦海岸レポートにも「ヒトデ1」って書いてあったので、あれも仕掛けを止めたタイミングで乗っかられたんだと思います。先輩に「仕掛け止めてたでしょ」って聞いたら「止めてた」と即答でした。

ヒトデが釣れるのは「追ってくる」のではなく「止めたものに覆いかぶさる」という生態のせいです。胃を外に出して食べるという食事方法を知ると、ちょっとすごい生き物だなと思います。

お子さんに「なんでヒトデが釣れるの?」と聞かれたら、この記事の話をしてみてください。「胃袋が外に出る」の時点で盛り上がると思います。

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ヒトデの種類によっては棘に毒を持つものがあります。釣れたヒトデを素手で触る際は注意してください。