リールはいつ、どこで生まれたのか|釣り具の歴史を変えた道具の起源
リールがなければ、釣りは延べ竿だけです
リールのない釣りをイメージしてみてください。竿と同じ長さの糸を垂らして待つ釣りです。岸から届く範囲はせいぜい10メートル前後。磯から足元に落とし込むか、船から真下に落とすかしかない。
リールの登場は「釣りの射程」を根本から変えました。糸を手元で巻き出せる仕組みができたことで、投げて広範囲を探れるようになり、深場に届くようになり、大物を引き寄せられるようになった。
その起源はどこにあるのか。リールの歴史を追うと、道具の進化が釣りそのものをどれほど変えてきたかが見えてきます。
最古の証拠——諸説あって定まっていません
リールの起源については複数の証拠と説があり、ひとつに定まっていません。
図像記録として最古とされるもの:イスラエルで発見された6世紀の古代ビザンチン帝国の銀貨に、リール付きの竿を抱える釣り人の姿が刻まれているという報告があります。ただし真偽は定かではないようです。
文字記録として最古とされるもの:中国の宋代(12世紀)に、簡単なリールが既に使われていたという記録があります。詳細な形状や機能については不明ですが、糸を巻き取る道具としてのリールの概念は、東アジアで先に生まれていた可能性があります。
縄文時代の釣り針が骨・角で作られていたように、最初期のリールも現在のような精密機械とはかけ離れた原始的な道具だったはずです。糸を巻き付けた木の棒程度のものから始まったと考えられています。
ヨーロッパへの伝播——17世紀イギリスでの記録
ヨーロッパでリールが文献に登場するのは17世紀です。1651年にトーマス・バーカーが出版した『The Art of Angling』の中でウインチ型のリールが記述されており、これがヨーロッパ最古の両軸受けリールの記録とされています。
当時のリールはギアのない単純な構造で、ラインを収納するためのものでした。釣りの際は手でラインを引き出して使い、手返しのような機能はありませんでした。現代のリールとは用途の発想も異なり、「巻き取るための道具」というより「糸を整理して保管する道具」に近いものだったようです。
時代背景として、1651年は日本では江戸時代・4代将軍徳川家綱の時代にあたります。日本でキス釣りが武士の間で流行し、延べ竿で脚立に乗って釣っていた時代に、ヨーロッパでは原始的なリールが生まれていました。
ギア付きリールの登場——時計職人の発想
18世紀に入ると、リールの技術が大きく進歩します。
1760年代、ロンドンの時計職人ジョージ・イングラムがギアを持つリールを設計しました。ギアを内蔵することで巻き取りがスムーズになり、効率的にラインを扱えるようになりました。
時計職人がリールを改良したことは偶然ではありません。精密なギア加工は時計製造の核心技術であり、その技術がリールに転用されたわけです。後にシマノが自転車のフリーホイール製造で培った精密加工技術をリールに応用したように、「別の分野の職人が釣り道具に革命をもたらす」という構図は歴史を通じて繰り返されています。
19世紀には、アメリカのケンタッキー州で時計製造と銀細工の職人だったジョージ・スナイダーが1820年にバスフィッシング用のベイトリールを完成させました。キャスティングにも対応したこのリールが、アメリカでのベイトリール文化の出発点になりました。
スピニングリールの誕生——紡績機からの着想
現在最も広く使われているスピニングリールは、意外と歴史が新しい道具です。
スピニングリールの原型は1905年にイギリスで生まれました。発明者はアルフレッド・イリングワース。現存する世界最古のスピニングリール「イリングワースNo.1」は1905年製で、翌1906年に発売されています。
イリングワースが着想を得たのは紡績機の機構でした。糸を巻き取る紡績機の仕組みをリールに応用するという発想です。スプールをリールの前方に固定し、その周囲をローターが回ってラインを巻き取るというスピニングリールの基本構造は、この時代に生まれました。
ただし発明から市民権を得るまでには時間がかかりました。スピニングリールが釣り具として広く普及したのは第二次世界大戦後のことです。ヨーロッパ発のスピニングリールがアメリカに輸入されて大流行したことで、世界的に普及が進みました。
日本のリール文化
日本にリール文化が本格的に入ってきたのは戦後です。それ以前の日本の釣りは延べ竿が中心で、リールを使う釣りは一般的ではありませんでした。
江戸時代のキス釣り文化(釣りの歴史:江戸時代のキス釣り参照)は延べ竿・のべ糸の文化であり、脚立に乗って海の中から釣るスタイルでした。リールの概念が入ってきたことで、この釣り方が投げ釣りへと変化していきます。
現在の投げ釣りで使うスピニングリールの歴史を遡ると、1905年のイギリスに辿り着きます。PEラインが飛距離を変えたように、リールの登場が釣りの射程を変えた——ラインの歴史(釣り糸の歴史参照)と同じ構図が、より大きなスケールで起きていました。
リールの歴史の流れ
| 時代 | 出来事 |
|---|---|
| 6世紀(諸説あり) | ビザンチン帝国の銀貨にリール付き釣り人の図像(真偽不明) |
| 12世紀 | 中国・宋代にリールの記録 |
| 1651年 | イギリスでウインチ型リールが文献に登場 |
| 1760年代 | ロンドンの時計職人がギア付きリールを設計 |
| 1820年 | アメリカでベイトリールが完成 |
| 1905年 | イギリスでスピニングリール「イリングワースNo.1」誕生 |
| 戦後 | スピニングリールが世界に普及 |
| 1965年 | ダイワがアウトスプール型リールを開発(現代スピニングの基本形) |
| 1970年 | シマノが釣具事業参入(スピニングリール製造開始) |
店長の結論
リールの歴史は「釣りの射程を広げてきた歴史」です
延べ竿の時代、釣り人は水面ギリギリの場所にいる魚しか狙えませんでした。リールが生まれ、投げて広範囲を探れるようになり、深海に届くようになった。PEラインがその射程をさらに伸ばした。
道具の進化が釣りの可能性を広げ、釣りの可能性が道具への要求を生む——リールの700年以上の歴史は、その繰り返しです。
本記事の歴史的情報は文献をもとにした解説です。リールの起源については諸説あり、発見・研究によって更新される可能性があります。