マゴチは1尾釣れたらもう1尾来る|夫婦仲と性転換の話

マゴチ釣りをする人の間で、古くから言い伝えられていることがあります。

「1尾釣れたら、その場で粘れ。もう1尾来る。」

相模湾の釣り師の間では「コチは夫婦仲がいい」と言われてきました。常にオスとメスがつがいで行動しており、片方が釣り上げられると、残された片割れが同じ場所にいる。だから同じポイントにもう一度仕掛けを入れると、高い確率で2尾目が釣れる。

経験則として広く共有されている話ですが、これを「迷信」と片付けるには実例が多すぎます。


「追いゴチ」という現象

東京湾でマゴチを狙う船釣りでは「追いゴチ」という現象が知られています。

メスのマゴチを釣り上げたとき、ペアのオスが海面近くまで追いかけてくることがあります。釣り上げられたメスを追って、海底から海面まで上がってくる。船長によっては、追いかけてきたオスを玉網ですくったことが一度や二度ではないと言います。

浮き袋がなく底から離れないはずのマゴチが、ペアの片方が引き上げられると海面まで追ってくる。それほど強い結びつきで行動しているということです。

この現象は特に産卵期(初夏〜夏)に多く見られます。産卵のためにつがいで浅場に入ってきているタイミングで、片方を失ったもう片方が離れられない。


なぜつがいで行動するのか

マゴチがつがいで行動する理由は、産卵行動と関係していると考えられます。

マゴチは砂底に定位する魚で、広い砂底の中からペアの相手を探すのは簡単ではありません。一度ペアを形成すると、産卵の機会を逃さないために近距離で行動を共にする。回遊魚のように群れで移動して産卵場所で合流するのではなく、ペアで行動して「いつでも産卵できる状態」を維持しています。

砂底に擬態してじっとしている魚にとって、群れを作る意味はあまりありません。群れで泳ぎ回るのは回遊魚の戦略で、底に張り付いて待ち伏せする魚には別の戦略が必要です。マゴチの場合、それが「つがい行動」だったのかもしれません。


オスとメスの見分け方

マゴチはメスの方が大きくなります。

オスは体長40〜50cmで成長がほぼ止まります。メスは60cm、大きい個体では70cmを超えます。大型のマゴチが釣れたら、ほぼ確実にメスです。釣り上げて腹を見ると卵が入っていることが多い。

船釣りで「追いゴチ」が起きるとき、先に釣れるのはたいていメスです。メスの方が体が大きく、活きエサやルアーへの反応も大胆になりやすい。メスが釣り上げられた後に、やや小さいオスが同じ場所で釣れる、というのが典型的なパターンです。

つまり「1尾目が大きくて2尾目がやや小さい」なら、夫婦を釣り上げた可能性が高い。


性転換するのか、しないのか

マゴチの性別については、長年「性転換する魚」として知られてきました。

従来の定説は「雄性先熟(ゆうせいせんじゅく)」。生まれてから2年ほどは全個体がオスで、体長が40〜50cmを超えるとメスに性転換する、というものです。大型個体がすべてメスであることが、この説の根拠でした。

ところが近年の研究では、この定説に対する反論が出ています。

「マゴチは性転換しない」という説です。オスは体長40〜50cmで成長が止まるだけで、メスに変わっているわけではない。メスは最初からメスとして生まれて大きく成長する。大型がすべてメスなのは性転換の結果ではなく、メスの方が成長ポテンシャルが高いだけだ、という見解です。

現時点では決着がついていません。コチ科の魚に雄性先熟型の性転換が見られることは確認されていますが、マゴチ個別に性転換しているかどうかは議論が続いています。


釣りにどう活かすか

夫婦仲の話を「へえ」で終わらせず、釣りに活かすとこうなります。

1尾目が釣れたらすぐにもう一度同じ場所に投入する。

ペアで行動しているなら、1尾目が釣れたポイントの近くにもう1尾いる確率が高い。1尾釣れた喜びでポイントを変えたり、休憩に入ったりするのはもったいない。同じ場所にもう一度仕掛けを入れてください。

大型が釣れた後に小型が来たら、夫婦かもしれない。

先にメス(大型)が釣れて、その後にオス(小型)が来る。「さっきの方が大きかったな」と思うかもしれませんが、それはペアの片割れが追ってきた結果です。

産卵期(初夏〜夏)はつがい行動が活発。

照りゴチのシーズンは、つがいで浅場に入ってきている時期でもあります。マゴチが夏に旨い理由は産卵のために猛烈に食べているからですが、釣り人にとっては「つがいで来ているから2尾セットで釣れるチャンスがある」季節でもあります。泳がせとルアーの具体的な釣り方はマゴチの釣り方をどうぞ。


私の結論

マゴチが夫婦仲のいい魚だという話は、釣り場の言い伝えとしてだけでなく、産卵行動に基づいた生態として筋が通っています。性転換するかどうかは科学者の間でもまだ決着していませんが、「大型はメス、小型はオス」という事実は確認されています。

1尾釣れたらもう1尾来る。この言い伝えを信じるかどうかは自由ですが、信じて同じ場所にもう一度投入する方が、ポイントを変えるより期待値は高い。

少なくとも、追いゴチで玉網ですくわれたオスの気持ちを考えると、夫婦仲が良いのは本当だと思います。

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本記事はマゴチの行動に関する一般的な知見と釣り場の経験則をもとにした解説です。つがい行動や性転換については研究途上の部分があり、今後新たな知見が得られる可能性があります。