釣り文化振興モデル港とは何か|背景・指定港一覧・効果と課題を整理します

「釣り場が増えるかもしれない」動きが、国主導で進んでいます

SOLASの話でも触れたように、釣り場は長年にわたって減り続けてきました。

ところが、その流れに逆らう形で、国土交通省が主導して釣り場を増やす取り組みを進めています。それが「釣り文化振興モデル港」です。

聞いたことがない人も多いと思いますが、釣り人として知っておく価値がある制度です。今回は背景から指定港の一覧、実際の効果と課題まで整理します。


背景:なぜ国が釣り場整備に動いたのか

釣り場が減り続けてきた歴史がある

2004年のSOLAS条約改正施行により、全国100か所以上の港湾施設が柵で囲われ立入禁止となり、多くの釣り場が失われました。その経緯についてはSOLAS条約と釣り禁止の理由で詳しく解説しています。

釣り文化振興モデル港は、こうして失われてきた釣り場を、別の形で取り戻す取り組みとも言えます。

二つの問題意識

釣り文化振興モデル港を指定するに至った経緯は、大きく分けて二つあります。一つ目が、国の政策として推進されている「地方創生」を推進するためです。釣りは多かれ少なかれ移動が前提の趣味で、港を観光資源として整備すると釣り客は増加します。

もう一つは安全対策の観点です。立入を禁止した防波堤等での釣り人の転落事故等も見受けられますが、安全対策をしっかりと行い、ルールを作り、関係機関の連携の下、防波堤等の港湾施設を多目的使用をしていくことが、むしろ事故の防止・減少につながることにもなると考えられます。

つまり「どうせ人が入るなら、ちゃんと整備して開放した方が安全」という逆転の発想です。

熱海港の先行事例が後押しした

釣りが地域に与える経済効果の一例として挙げられるのが静岡県の熱海港。同港では防波堤を釣り施設として一般開放しており、平成28年には年間約36,000人の利用客が来訪。近隣の飲食店や旅館への経済波及効果が大きくなっています。平成18年度と比較すると熱海市の収益は約3倍に増加、近隣の飲食店等の収益も約2割増加しているとのことです。

この実績が、国土交通省を本格的な制度化に向かわせた大きな要因のひとつです。


制度の概要

どういう制度か

国土交通省港湾局は、観光資源としての港湾における釣り施設や既存の防波堤等の利活用を進めており、地域の関係者による地方創生を目的とした釣り文化振興の取組が進められている港湾を「モデル港」として募集し、「釣り文化振興モデル港」として指定しています。

重要なのは「国が上から作る」制度ではないという点です。地元の協議会・漁業組合・自治体などが自ら組織を作って応募し、審査を経て指定される仕組みです。

指定の条件

応募時に必要な条件は以下の4点です。

  1. 釣りによる地域創生・地域活性化を図るという地域の意向があること
  2. 釣り客の需要が一定程度見込まれること
  3. 釣果が見込まれる防波堤等の港湾施設があること
  4. 地元関係者からなる協議会等が組織されていること

さらに、日本釣振興会等の専門家の同行による「試し釣り」による釣果確認が必須条件とされています。「釣れるかどうか」を事前に確認する仕組みが組み込まれているわけです。

モデル港に指定されると何が受けられるか

モデル港に指定されると、直轄事務所による協議会等の効率的な運営に関する技術的な支援、(公財)日本釣振興会による安全対策やマナー教育への支援、釣り文化振興モデル港全国会議における情報交換・交流、国土交通省港湾局からの情報発信等による広報が予定されています。


指定港の一覧

指定は3次にわたって行われ、2024年8月時点で全国21港が指定されています。

1次指定(2019年3月)13港
青森港(青森県)、秋田港(秋田県)、小名浜港(福島県)、相馬港(福島県)、新潟港(新潟県)、直江津港(新潟県)、熱海港(静岡県)、清水港(静岡県)、高知港(高知県)、下関港(山口県)、北九州港(福岡県)、芦屋港(福岡県)、別府港(大分県)

2次指定(2020年8月)3港
苫小牧港(北海道)、御前崎港(静岡県)、青方港(長崎県)

3次指定(2024年8月)5港
室蘭港(北海道)、江差港(北海道)、館山港(千葉県)、比田勝港(長崎県)、志布志港(鹿児島県)

館山港は令和6年8月7日付けで関東地方初となる「釣り文化振興モデル港」として国土交通省から指定されました。

地方都市の中〜大規模港が多く、関東では館山港が唯一の指定港です。


効果:実際に何が起きているか

地域経済への波及

熱海港の事例が示す通り、釣り客の増加は飲食・宿泊・交通など周辺産業への経済波及効果を生みます。

ここで「釣り人はお金を落とすのか」という疑問に答えるデータを整理します。

農林水産省の委託調査(令和2年)によると、釣り人一人あたりの一日の現地消費額は約1,911円(釣りを行った市町村内)。これは釣り場周辺での飲食・エサ・消耗品などの当日支出です。釣り具やウェアなどの年間支出は別途、現地外で15,779円という数字も出ています。

レジャー白書によると釣り人口は2023年時点で約510万人。年間平均活動回数は約10回です。仮に1回の釣行で現地消費が2,000円とすると、釣り人全体では年間約1,000億円規模の現地消費が発生している計算になります。

さらに国内釣具市場は、コロナ禍の2022年に約1,626億円を記録。2024年見込みでも約1,381億円と、コロナ前の2019年比で7%上回る水準を維持しています(日本釣用品工業会調べ)。

釣りは「道具を持参して日帰りで終わる」趣味ではなく、遠方から来る場合は宿泊・食事・燃料・現地での道具購入などを伴います。特に地方の港に遠征釣行する層は、1泊2日で数万円単位の消費をするケースも少なくありません。

安全対策の整備

モデル港では協議会が設置され、釣り可能エリアの明示・救命設備の配置・マナー啓発看板の設置などが行われます。「なんとなく釣れていた場所」が「ルールがある場所」になることで、事故リスクの低下が期待されています。

漁業者との関係整理

これまでグレーだった「漁港での釣り」が、協議会を通じて漁業者と釣り人の役割分担を明確にする機会になっています。釣り可能エリアと漁業エリアを分けることで、漁業者とのトラブルが減った港もあります。

訪日観光との連携

比田勝港では、水産庁の漁業による地域活性化の取組「海業」と連携し、訪日観光客やファミリー層をメインターゲットとした釣りをきっかけとして、民泊モデル推進や海鮮屋台の展開、観光機能強化などに効果を繋げ、地方創生を目指しています。


課題と副作用

整備されると混雑する

モデル港に指定されて広報されると、釣り人が集中します。整備前は静かだった場所が週末に混雑し、地元住民や漁業者が不便を感じるケースが報告されています。「開放したら却って管理が大変になった」という声も出ています。

マナー問題は解決しない

ルールを作っても守らない釣り人は一定数います。ゴミの放置・違法駐車・釣り禁止エリアへの侵入は、開放した港でも発生します。協議会が継続的に管理・啓発を行う必要がありますが、それは地元の人的・財政的負担になります。

指定が「お墨付き」で終わる場合がある

モデル港指定は「称号」であり、直接的な予算補助ではありません。協議会の運営支援や広報支援はありますが、施設整備の費用は地元が手当てする必要があります。指定を受けても実質的な釣り場整備が進まないケースもあります。

関東・都市部への波及が遅い

指定港の多くは地方都市の港です。釣り人口が多い関東圏では館山港が唯一の指定港で、利用しやすい距離にある人は限られます。制度の恩恵が釣り人口の多い地域に届くまでには、まだ時間がかかりそうです。


釣り人として知っておくべきこと

モデル港での釣りにはルールがある

モデル港として指定された釣り場には、釣り可能エリアの指定・利用時間・禁止事項などのルールが設けられています。「開放されているから何でもOK」ではありません。現地の掲示と協議会のルールを必ず確認してください。

この制度は「釣り人のマナー次第」で機能する

モデル港の継続・拡大は、釣り人全体のマナーにかかっています。ゴミを持ち帰り、ルールを守り、漁業者に迷惑をかけない——当たり前のことを続けることが、この制度を維持し、新たな釣り場を増やすことにつながります。


店長の結論

SOLASで失われた釣り場を、別の形で取り戻す動きです

SOLAS条約で100か所以上の釣り場が失われた一方で、釣り文化振興モデル港の取り組みは少しずつ釣り場を増やす方向に動いています。2019年の制度開始から2024年までに21港が指定され、3次募集も継続中です。

この制度が機能するかどうかは、釣り人の行動にかかっています。
開放してもらった場所を大切に使うこと。それが次の釣り場を生む一番の近道です。

モデル港を含む全国の釣り場情報はTsuricastの釣り場一覧でご確認ください。


本記事の情報は執筆時点のものです。指定港の追加・変更については国土交通省港湾局の公式ページおよび公益財団法人日本釣振興会をご確認ください。