エギ(餌木)完全ガイド|300年の歴史を持つ純日本製ルアーの全貌
釣具店に行くと、エギだけで棚一列を占領しています。色はカラフルで、サイズも形もさまざま。あれは一体何が違うのか——エギングをやったことのない人からすると、正直暗号にしか見えないと思います。
でもこの記事を読めば、その棚の全体像が見えてきます。エギはその形に意味があり、カラーに理由があり、サイズに根拠があります。そして何より、エギは純日本生まれの300年の歴史を持つルアーです。
エギとは何か——なぜあの形なのか
エギは漢字で「餌木」と書きます。文字通り、餌になる木の疑似餌です。
起源は江戸時代中期(1700年代)、鹿児島・奄美大島周辺の漁師が松明を持って夜の漁に出ていたとき、海中に落ちた燃えかすにイカが抱きついたことがヒントになったと言われています。「光る木切れにイカが反応した」——これが約300年前のエギの原点です。
その後、薩摩藩の上級武士のレジャーとして広まり、「他人より多く釣る」という武士の競争心がエギをどんどん改良していきました。奄美では魚型の大型だったエギが、薩摩では現代のエビ型に近い小型・スリム型へと進化。さらに日本各地の漁師町に伝わり、大分型・山川型・五島型・山陰型・紀州型と、地域ごとに独自の形状が生まれました。
現在市販されているエギの9割は「大分型」がベースです。スリムで飛距離・シャクリ・フォール全ての動作に対応しやすく、ショア(岸)からの釣りに最適な形として定着しています。
他のルアーのほとんどがアメリカ発祥なのに対して、エギは正真正銘のメイド・イン・ジャパンです。現代のエギの形状は300年前からほとんど変わっておらず、それはこの形を超えるものがまだ作られていないことの証明でもあります。
以前、田中店長に「エギってそもそもなんであの形なんですか」と軽く聞いたことがあって、そこから1時間半帰ってこれませんでした。江戸時代の話から薩摩武士の話から地域型の話まで、店長の餌木愛は底なしです。ただ、聞いた内容は本当に面白かったので、時間に余裕があるときに聞くことをお勧めします。

エギの構造:なぜ布が巻いてあるのか
エギをよく見ると、プラスチックのボディの上に布が巻かれています。これには理由があります。
イカはプラスチックに触れると「硬い・不自然」と感じて離してしまいます。布を巻くことで触り心地が自然になり、イカが抱いている時間が長くなります。布の網目からは下地のカラーが透けて見え、この「下地カラー+布カラー」の2層構造がエギのカラーを構成しています(後述)。
エギの主要なパーツはこちらです。
- ラインアイ:頭部の金具。リーダーやスナップを接続する
- シンカー:顎の下のオモリ。重さによって沈下速度が変わる
- カンナ:後部の針。イカを引っかける部分で、返し(かえし)がないのが特徴
カンナに返しがない理由も面白いです。イカは真後ろにしか泳げないため、一度抱いたら逃げにくい。だから返しがなくても外れにくく、むしろ根がかりしたときに外しやすいというメリットになります。また、イカはエギを「捕食」するのではなく「抱きつく」という独特の行動をとります。魚とは全く違う釣り方が必要な理由がここにあります。
エギのサイズ:号数の選び方
エギのサイズは「号」で表されます。号数が大きいほど大きく・重く・速く沈みます。
| 号数 | 重さの目安 | 向いている時期・状況 |
|---|---|---|
| 2〜2.5号 | 約7〜10g | 秋の新子(小型イカ)・小場所 |
| 3号 | 約11g | 秋の数釣り・初心者の入門 |
| 3.5号 | 約20g | 通年汎用・最もスタンダード |
| 4号 | 約25g | 春の大型・深場・潮が速い場所 |
最初の1本は3〜3.5号が最も汎用性が高いです。 秋のシーズンなら3号、春の大型狙いや通年使いたいなら3.5号を基準にするとよいです。
フォールスピードの種類:なぜこんなに種類があるのか
同じ号数でも、フォールスピード(沈む速さ)で複数のバリエーションがあります。
| タイプ | 沈下速度 | 向いている状況 |
|---|---|---|
| ノーマル | 標準(3.5号で約3秒/m) | 汎用・最初の1本 |
| シャロー(S) | ゆっくり | 浅場・警戒心が高い春イカ |
| ディープ(D) | 速い | 深場・潮が速い場所・風が強い日 |
| スーパーシャロー(SS) | 非常にゆっくり | 極浅場・水面直下を漂わせる |
エギングの基本は「シャクって跳ね上げ、フォールで食わせる」です。イカはフォール中に抱きつくことが多く、水深や潮の流れに合わせてフォールスピードを選ぶことが釣果に直結します。
これがエギの棚に大量の種類がある理由のひとつです。同じカラー・同じサイズでも、フォールスピードが違えば別の製品として並ぶため、組み合わせが膨大になります。
カラーの謎を解く:なぜあんなに色があるのか
エギのカラーが多い理由は、エギには「下地カラー」と「上布(布カラー)」の2層構造があるからです。
下地カラー(テープの色)
エギのボディに巻かれたテープの色で、布の網目から透けて見えます。カラー選びで最も重要なのは下地カラーです。
光の量(時間帯・天気)に合わせて選びます。
| 下地カラー | 向いている状況 |
|---|---|
| 赤・紫テープ | 夜間・闇夜・深場(シルエットでアピール) |
| 金テープ | 朝夕マズメ・曇り・濁り潮(オールラウンド) |
| 銀・ホログラムテープ | 晴天・澄み潮・昼間(強いフラッシング) |
| ケイムラ(紫外線発光) | 日中全般・曇り(紫外線で淡く発光) |
| 夜光(グロー) | 夜間・深場・強い濁り(自ら発光) |
基本的な考え方は「光が少ない状況ほど存在感を出す色を選ぶ」です。昼間の澄み潮では目立ちすぎず、夜や濁りでは見つけてもらいやすくします。
上布カラー(布の色)
下地の上に巻かれた布の色です。ピンク・オレンジ・ブルー・グリーン・ブラウンなど多彩です。
潮の色(澄み・濁り)や光の量に合わせて選びます。
- 濁り潮・曇り・朝夕マズメ:オレンジ・ピンクなど明るいアピール系
- 澄み潮・晴天の昼間:ブルー・グリーン・ブラウンなどナチュラル系
- 夜間・闇夜:赤・紫・ダーク系(シルエットで勝負)
この下地×上布の組み合わせが膨大になるため、棚に何十色ものエギが並ぶことになります。
わたしは下地を基準に選んでいます。その日の光量と潮色を見て下地を決めたら、上布は2〜3色持って反応を見ながら変えていく感じです。最初は金テープ×ピンク/オレンジを軸に1〜2本持っておくと、どんな状況でもとりあえず使えます。

価格帯と性能差
入門クラス(800〜1,200円)
ヤマシタ「エギ王Q」、ダイワ「エメラルダスラトル」などの廉価モデルです。基本性能は十分で、エギングを始めるには問題ありません。根がかりロストが多い場所では、まずこのクラスで場所の根がかり状況を把握するのが賢い使い方です。
ミドルクラス(1,200〜2,000円)
フォール姿勢の安定性・飛距離・アクションの精度が上がります。ヤマシタ「エギ王K」、ダイワ「エメラルダスピーク」、シマノ「セフィアクリンチ」などが定番です。釣行頻度が増えてきたら、このクラスにステップアップする価値があります。
ハイエンドクラス(2,000円〜)
フォール姿勢・ダートアクション・飛距離のすべてが高精度になります。警戒心の高い春の大型アオリイカや、スレたポイントで差が出ます。根がかりロストの心の痛みも相応です(笑)。
タコエギについて
同じ「エギ」という名前ですが、タコエギはイカ用エギとは全くの別物です。タコは底をズル引きして誘うため、太くて強いフックが必要で、形状も異なります。イカ用エギでタコは釣れませんし、タコエギでイカも釣れません。用途を間違えないようにしてください。
まとめ:最初のエギはこう選ぶ
初めてエギを買うなら、下記の基準で選べば失敗しません。
サイズ:3〜3.5号 タイプ:ノーマル(標準フォール) カラー:金テープ×ピンクまたはオレンジ(昼夜問わずオールラウンド)
この組み合わせを2〜3本持っておけば、秋の堤防エギングはほぼカバーできます。釣行を重ねながら、フォールスピード・カラーローテーションを少しずつ増やしていくのが自然な流れです。
エギングの面白さの半分は、この「どのエギを選ぶか」の過程にあります。棚の前で悩む時間を楽しんでください。
合わせて揃えたいもの
- エギングロッド(8.3〜8.6ft・MLまたはM)
- スピニングリール(2500〜C3000番)
- PEライン(0.6〜0.8号)
- フロロカーボンリーダー(2〜3号・1〜1.5m)
- スナップ(エギのワンタッチ交換用)
よくある質問(FAQ)
Q. エギングは日本固有の釣りですか?
→ はい、エギ(餌木)は約300年前に鹿児島・奄美地方で生まれた純日本製のルアーです。他のルアーのほとんどがアメリカ発祥なのに対して、エギは日本固有のルアー文化から生まれました。現代のエギの形は江戸時代から大きく変わっておらず、それだけ完成された設計ということでもあります。
Q. エギのカラーはどれから揃えればいい?
→ 最初は金テープ×ピンクまたはオレンジのエギ1〜2本から始めるのが最もコスパが良いです。このカラーは昼夜・晴れ曇り問わず幅広く対応できます。釣行を重ねながら、状況に応じて下地カラーを変えるローテーションを覚えていくのが自然なステップアップです。
Q. イカ用エギとタコエギは何が違うの?
→ 形状・フック・使い方が根本的に異なります。イカ用エギはシャクリ+フォールでアオリイカを誘い、返しのないカンナで引っかけます。タコエギは底をズル引きしてタコを誘い、太くて強いフック(返しあり)でガッチリ掛けます。兼用はできません。
Q. エギはなぜあの独特の形をしているの?
→ イカがエビを捕食するときの動きを模した形です。シンカーが頭側の下に付いているため「前のめりの姿勢」でフォールします。イカは下方向が見やすい生き物で、上から前のめりに落ちてくるエギの動きが、逃げるエビのように見えて反応しやすい設計になっています。
Q. 同じサイズ・カラーのエギが複数種類あるのはなぜ?
→ フォールスピードが異なるためです。同じ3.5号・金テープ×ピンクでも、ノーマル・シャロー・ディープと沈む速さが違うエギが存在します。水深・潮の速さ・イカの活性に合わせてフォールスピードを選ぶことが釣果に直結するため、棚に大量のバリエーションが並ぶことになります。




